タイトルで名作になれなかった不遇のアクションRPG「那由多の軌跡」

「那由多の軌跡」は老舗日本ファルコムが2012年にPSPでリリースしたアクションRPGだ。「軌跡」シリーズとして扱われているが、内容は従来の「空の軌跡」や「零の軌跡」「碧の軌跡」とは違い、完全にアクション重視のRPGに仕上がっている。

発売当時はタイトルと内容のギャップで一部でネガティブな反応が目立ってしまったが、アクションRPGとしてのクオリティは悪くない良作ゲームだ。コミカルなキャラ劇が特徴で「グランディア」や「デュープリズム」、「ロックマンDASH」といったゲームに反応するレトロゲーマーにピッタリのゲームになっている。

PSPに上手く嵌った日本ファルコム製のレトロ和ゲーRPG

ファルコムは長らくPCを主戦場として活躍してきたが、PSPをメインにタイトルをリリースすることで安定した売上本数を確保したゲームメーカーだ。大手メーカーが力を入れなくなった従来型のレトロな和ゲーRPGを好む層に上手く嵌った具合といえるだろう。堅実にゲームとして良作に仕上げるファルコムは、現在もコンシュマー市場でファンを獲得している数少ない老舗だ。

PSP参入初期はPCからの移植色メインだったが、中期以降はPSP専用タイトルとしてリリースしている。海外ではPSPからPCの逆移植も販売されているが、国内では実施されていない。本作「那由多の軌跡」も現時点ではPSPオンリーだ。

事実上の「ツヴァイ3」ともいえる「那由多の軌跡」

「那由多の軌跡」は「軌跡」シリーズとして扱われているが実態は「ツヴァイ」シリーズや「ぐるみん」といったイース以外のファルコムのアクション重視のRPGラインといって良いだろう。とくに「ツヴァイ」との共通点は大きい。

PSPで認知度が上がった「軌跡」シリーズのブランド力を利用したタイトルの命名といったところだろうか。これはPCメインでリリースした「ツヴァイ2」の売上が芳しくなかったためだと推測される。

*PCの隠れた名作ツヴァイ1と2。コミカルなキャラクターが特徴的

*「那由多」のルックは「軌跡」シリーズより「ツヴァイ」シリーズに近い

この本来「ツヴァイ3」ともいえるタイトルを「軌跡」シリーズとしてリリースしたため、軌跡シリーズのみのファンはギャップを大きく感じた様だ。リリース直後からインターネット上を中心に一部でネガティブな反応も目立ってしまった。

「那由多の軌跡」の売上本数

PSPを主戦場にしたファルコムはPCからの移植である「空の軌跡」シリーズで順調に売上本数と認知度を上げ、「零の軌跡」では20万本近くという和製RPGとしては中堅レベルまで育っている。「那由多の軌跡」は累計売上本数は11万本を越えており、売上本数だけ見ると決して悪くない。直前の「碧の軌跡」と比較すると落ち込んでいるが、2012年というPSP末期を踏まえると十分成功といえる数字だろう。

開発規模も「イース7」や他の軌跡シリーズと比較すると小さな規模の様で、利益的には十分確保できていると推測される。消化率が低く市場価格は早く低下しているが、「零の軌跡」「碧の軌跡」も同様かそれ以上の価格低下を招いていたため、「那由多の軌跡」だけの問題ではないだろう。しかし。本作は他の「軌跡」シリーズと違い、PSP VITAやPS3に移植されてない点を踏まえるとファルコム社内では失敗扱いになっている様にも見える。

過去作のノウハウを活かした堅実なアクションRPG

さてゲーム内容を見てみよう。「那由多の軌跡」はイース、ツヴァイシリーズ、ぐるみんで培われたノウハウが存分に生かされている。イースシリーズよりアクション性は高く、空間を利用したアクションと多彩なギミックを駆使したA・RPGとして堅実に仕上がっている。ボスバトルもイースより凝っており、攻略パターンを組み立てながら撃破する内容だ。

ゲーム全体はステージクリアー型となっており、この辺もツヴァイのシステムを連想させる。各エリアにはミッションや隠しアイテムが配置されており、やり込み要素として機能する。

また季節チェンジという独自システムが採用されており、これによって一度訪れたステージも違った仕掛け、難度で遊べる。当初はアセット流用の手抜きかと思っていたが、ビジュアルも大きく変化している印象を与える事に成功しており、単なる手抜きステージという感はない。

ステージ内容は多彩で、進行に併せて拡張するアクションを駆使してギミックを説いていく。3Dだが視点構成は従来のベルトアクションに近い部分が大半だ。難度は高くなく、落下によるペナルティも装備アイテムで回避できる等、アクションゲームが苦手なユーザーにも配慮がある。

PSPで細部まで作り込まれたビジュアル

イースセブンでは残念な事になっていたグラフィックだが、本作はPSP末期という事もありグラフィックは他社と比較しても劣っていない。自由カメラ視点でないため他の3Dゲームとは比較できないが、ビルボードテクスチャを駆使し、PSPながらも「那由多」の世界観を表現した丁寧でなビジュアルは好感が持てる。

PS2のFF12から影響された表現も見られ、少ないポリゴン数ながらも情報量を維持しようと頑張っている。イースセブンではビジュアル面では諦めていた感があっただけに嬉しい誤算だ。画面全体の色彩設計も美しく、PSPという限られたハードスペックながらも表現を試みようとするグラフィック担当者の意地が感じられる点が良い。

凝ったテクスチャがイースセブンより多いためか、UMDの読み込みは多い。しかし、随時バックグラウンドで先読みを行っているのか高速でストレスにはならない。

キャラクターは3Dモデルで表情まで表現しようとテクスチャで頑張っている。「閃の軌跡」や「イース8」は稚拙に見えるが、本作では元々等身が低くデフォルメが強いこともあり、チープに見えない。コミカルなキャラクターと表現が嵌っている感じだ。ポリ劇はデュープリズムやロックマンDASHが好物なレトロゲーマーには嬉しい仕上がりだろう。ただし演出やレイアウトが良くなく、せっかくのモデルが勿体無いシーンが多い。

触って楽しく、気持ち良いバトル

バトルアクションはファルコムらしく、触って気持ち良い仕上がりだ。レベルにもよるがザコでも動きを見て戦う必要があり、慣れてくると攻略の楽しみが増してくる。イースほど高速ではないが、個人的にはこの程度の駆け引きが在る方が楽しめる。ただし、レベルを適正まで上げれば力推しのボタン連打での進行可能だ。特に序盤に覚える下ジャンブ斬りは強力で、殆どの敵がこれで沈む。

本作でもガードアクションが可能で、タイミングよくガードする事で有利にバトルを展開する事ができる。エフェクトと音が相まって気持ち良いが、やや万能過ぎる感があり、慣れると殆どの攻撃を無効化できる。このため折角のボスバトルがやや温くなる。連続ガード時に上限があったほうが奥深いバトルが楽しめたかもしれない。

ボスのギミックはかなり凝っており、さながらアトラクションといった具合だ。中盤以降はパートナーの「ノイ」のアクションも駆使する必要があり、試行錯誤しながらボスバトルが楽しめる。イースより凝ったギミックが多いが、難度は丁度良い具合でストレスも堪らない。レベルを上げればミスペナルティも大幅に減少するので、アクションが苦手な層でも幅広く楽しめる調整になっている。

ただ適正レベルだと敵が硬すぎて、攻略方法を確立した後も作業感を強いられる。ダメージペナルティを大きくして、敵のHPを下げた方が攻略の必然性が強くなりそうだが、イースセブンでも同様のバランスだったので、これがファルコムの現在の「解」なのだろう。

シナリオは近年のファルコム作品より受け入れやすい

「空の軌跡」で高い評価を得たシナリオだが、近年のファコム作品のシナリオは人を選ぶ。「那由多」はそれらの作品群と比較すると間口は広く、癖もない。ファルコムシナリオに閉口気味の人でも遊びやすいだろう。しかし登場キャラクターを増やしすぎて、物語が渋滞気味だ。舞台を限定したシンプルなシナリオなので、キャラクターを整理する必要があっただろう。全体として描くべきテーマと人物が散らばりすぎており、結果的にユーザーに伝わりにくくなっている。

壮大な出来事は結構だが、キャラクターに感情移入できるようなプロセスがないため物語に没入しずらい。ノイはキャラクターとして描けているので、物語の焦点を主人公とノイに絞って、テーマに掘り下げた方が良かったのでは・・と個人的に思う。他の要素が頑張っているだけに惜しい感じだ。

攻略が楽しいダンジョンギミック

ダンジョンのギミックはイースセブンよりバラエティ豊かで、終盤まで飽きさせず様々なシチュエーションで楽しませてくれる。二段ジャンプの操作感はやや違和感を感じるケースがあるが、慣れると問題ないレベルだ。距離を測る要素がキャラの影しかないため、自キャラの位置が把握できずに落下ダメージを受ける事が多々あるが、落下ペナルティは装備で回避できるため致命的なストレスにはならない。

アクション内容も徐々に増えるため、スムーズに習得できるゲームデザインは秀逸だ。主人公と常に行動する「ノイ」のアクションは多彩で、随時追加される能力は触っているだけで楽しいというアクションゲームの基本を抑えている。

気になった点は中盤以降登場することになる「ルアーアクション」の挙動だ。これが物理的に違和感が多く、しっくりこない。「海腹川背」の様に納得できる動きになっていない。多用するだけに、中途半端な挙動が3D空間の位置把握の困難さと相まってストレスが溜まってしまう。これなら割り切ってシンプルな分かりやすい挙動の方が良かったのではないかと思う。

単調なクエスト内容

メインの物語以外にもクエスト方式のサブミッションが発生するが、これが非常に退屈だ。「お使い」を「お使い」に見せないところが、プランナーの腕の見せ所のはずだが、本作ではそれを放棄している様に感じる。

全体的に作業感が半端なく、楽しみをどこに見い出せばよいのか分からない。ゲームをクリアーする上では特に必要ではないので、興味がなければスキップしても良いだろう。

安定の成長システム・バランス

RPGの老舗だけあって、成長システムやバランスは安定している。ノイのカスタマイズによるゲームデザインもユーザーに選択肢を与えており、攻略の幅を持たすことに成功している。装備を変更するとハッキリとダメージに差がでるので、成長の実感が湧きやすい。

料理システムなどファルコムRPGではお馴染みの要素はもちろん実装済みだ。お店のお姉さんのコミカルな演技が可愛らしく、意味もなくキャンセルしてしまう。(メインキャラクターはここまで凝った表現をしていないので、ゲームとしてのコスト配分に疑問は感じるが・・・)

「軌跡」シリーズとして受け入れられなかった不遇の良作

全体として細かいマイナスポイントも記載したが、致命的な部分でもなく、総じて良作といえるアクションRPGだ。名前のため、購入層の期待とイメージにギャップが発生してしまったが、「ツヴァイ3」や「ぐるみん2」またはオリジナルタイトルとしてリリースすれば、優れた単発作品として評価も変わっただろう。売上的には初動こそ厳しくても、次作以降でファルコムを支える新しいブランドになり得たかもしれない。

「軌跡」と冠しているが、ゲームは1作完結しているため遊びやすい。アクションRPGファンは試しに遊んで見るのも良いだろう。 PSPのファルコム作品は中古市場での価格暴落が激しく低価格で流通しているため、合わなくてもダメージは小さいはずだ。