試される信仰心「Radeon RX Vega 64」AMD最強GPUレビュー 。ベンチマーク・電気料金・ゲーム性能

AMDより満を持して発売された「Radeon RX VEGA64」。R9 Furyから実に2年ぶりのハイエンドの更新となる。先進のHBM2メモリを備えたAMD最強のビデオボードはライバルのNVIDIAの独走を阻止する事が出来るのだろうか。
今回は「Radeon RX VEGA64」のベンチマークとゲームパフォーマンス、各電力モードの性能差と消費電力、そして実際の電気利用料金にスポットを当て、GTX1080,GTX1080TI、RX580との比較を中心にレビューしていく。

仕様・特徴

ハイエンド帯をカバーするRX VEGA 64、VEGA54

2017年に発売された「Radeon RX 500」シリーズはライバルの「Geforce GT1030」、GTX 1050、GTX 1060と競合するエントリー~ミドルレンジをターゲットにしたGPUだ。
対して「VEGA」シリーズは「GTX1070」以上をターゲットにしたハイエンド領域をカバーし、「RADEON R9 Fury x」や「R9 NANO」を更新する「AMDの本気」を問われるGPUとなっている。
 

設計は「GCN」の改良版「Nex Compute Unite(NCU)」で、先進のHBM2メモリを採用している。DX12への対応強化やGeforce系のタイルベースレンダリングに近い機能、HBM2メモリをキャッシュとして利用できる機能の実装など、今後を見据えた最新GPUとなる。

また「RX VEGA64」は空冷に加えて、水冷版「Radeon RX Vega 64 Liquid Cooled Edition」をリファレンスで用意。水冷版の方はベースクロックが1247→1406Mhz、ブーストクロックは1546→1677Mhzとクロックが向上するトレードオフとして、公称電力消費は295→345Wと消費電力が更に上昇する。

NVIDIAのハイレンジGPU群とのピーク性能競争

「VEGA」の存在は1年以上前から発表されており、AMDファンは首を長くし待っていた。その間にライバルのNVIDIAは「GTX1080」をリリース。高いパフォーマンスと低い消費電力で好評を得ている。

NVIDIAも「VEGA」を警戒していたのか、2017年3月に更なるハイエンド「GTX1080TI」を投入。直前に発売した「TITAN X」を上回る性能に置き、同時に「GTX1080」を499ドルに価格改定を行い「対VEGA」の臨戦態勢に入る。

そして「Geforce GTX 1080」の発売から約1年、満を持して「VEGA」シリーズが発売となっり、久しぶりのAMDとNVIDIAのハイエンドグラフィックボード対決が実現した。

空冷版 Radeon RX VEGA 64

今回レビューに用いるグラフィックボードは空冷版VEGA64となるHIS社の「HIS Radeon RX Vega 64 AIR Black 8GB」。リファレンスモデルで各社中身に違いはない。


型番:HIS Radeon RX Vega 64 AIR Black 8GB(amazon)

インターフェース形状:PCI Express(3.0) x16
コアクロック:ブースト 1,546MHz/ベース 1247Mhz
メモリクロック:945MHz
ビデオメモリ:HBM2 8GB 256bit
映像出力:HDMI2.0b×1 /DisplayPort 1.4×3
補助電源コネクタ:8ピン×2
専有PCIスロット:2スロット
システム電源要件:750W


外観・形状の特徴

デザインや映像端子・構造と合わせて、VEGA64の特徴であるBIOSスイッチなどの外観・ハードウェアとしての特徴を先ず見ていこう。

付属品

付属品はPCIの8ピン補助電源変換ケーブル2つとシンプルなマニュアルのみで、ドライバディスクが珍しく付属しない。パフォーマンスが安定したドライバが出荷までに間に合わなかったのだろうか。

外観

外観はRX480のリファレンスモデルから殆ど変化はなく、サイズが少し大きくなっている程度だ。外排気形状なので後方部分にクーラーが設置され、カード内部を通って背面から放出される。

凝ったデザインのNVIDIAのFEエディションと比較すると、「ブラックの箱」といった様相で至ってシンプルな見た目だ。

側面にはメーカーロゴが配置されているが配置され、LEDで光る。ロゴの上に後述する消費電力の上限を切り替えるBIOSスイッチが配置されている点が特徴的な変化だ。

サイズ・カード長

カードサイズもNVIDIAのリファレンスサイズとほぼ同じとなっている。両社ともリファレンス版はあらゆる環境で安定した動作を求められるため外排気モデルとなっており、形もデザイン以外は似ている。

カード長は28.0cmとなっておりNVIDIAのGTX1080TIより1cm強長い様だ。

ブラケットから飛びてている構造ではないので、補助電源付きのグラフィックボードを収納できるPCケースであれば、問題なく設置できそうである。

カードサイズは公称 28cm×12.7cm×4cmで、高さ的には2スロットジャストで収まっており、複数枚にCross FireX マルチグラフィックボード構成でも無理なく収まりそうだ。

映像出力端子・バックプレート

映像ディスプレイの出力端子はHDMI×1 DisplyPort×3というミドルレンジ以上では定番の構成となっている。

ディスプレイポートのバージョンは最新の「DisplayPort 1.4」となっており、規格上では8K-60Hzや4k-120Hz、HDRをサポートする。「HDMI2.0b」は4K/60Hz映像出力、HDR対応、横長の変則アスペクト比モニタに対応した最新端子だ。

ハイエンドクラスという事もあり、裏面はバックプレート搭載されており堅牢だ。

GPUクーラー・補助電源

GPUクーラーはシングルファン設計で外排気となっており、背面の映像端子付近に配置されているスリットから暖められた空気が排出されてる。

補助電源構造は8ピン×2。この時点で高い消費電力という事が伺える。同クラスのGTX1080は8ピン×1だ。GTX1080TIでも8ピン×1+6ピン×1構成である。

消費電力制御用のBIOSスイッチ

サイドのロゴ上にはBIOSスイッチが配置されている。これは「Dual BIOS Toggle Switch」と称され、消費電力の最大値をBIOSレベルでコントロールするものとなっている。

デフォルトのプライマリ状態では本来の消費電力を保ち、セカンダリに移動させる事で消費電力を抑えた省電力モードに切り替える事ができる。

少しややこしいが、「Radeon RX VEGA」はソフトウェアでも電力設定を備えており、こちらでも「パワーセーブ(Power save)」、「バランス(Balance)」「ターボ」の3種のモード制御が可能だ。したがって、ハードウェアスイッチ2種×ソフト制御3モードの合計6モードと電源設定が存在する事になる。

工場出荷時は「プライマリー+バランス」の220Wとなっている。このハードウェア スイッチとソフトウェア スイッチによる煩雑な電力設定周りからもAMDが「VEGA」の消費電力に苦労した点が伺える。

LED・制御スイッチ

補助電源付近には電源状態をLEDメーターで表示する「GPU Tach」の制御スイッチが配置されており、LEDのオン・オフに加えて赤と青の色変更も可能だ。

稼働時はロゴと「GPU Tach」のLEDが光る。負荷が高まり消費電力が向上するとメーターが下記のように点灯するギミックとなっている。

ゲーム系ベンチマーク

では「Radeon RX VEGA 64」のゲーム系ベンチマークを見ていこう。AMD最強GPUのパフォーマンスはライバルNVIDIAのハイクラス「GTX1080」「GTX1080TI」に何処まで迫れるのだろうか。

なお、ここでは工場出荷時の設定で「Vega64」の基礎体力を評価している。電力制限モード毎の評価は後ほどパフォーマンスと消費電力量を踏まえて迫っていく。

3DMARK TimeSpy 

  

DirectX12のゲーム指標となる「TimeSpy」はAMD Radeon が強いベンチマークだ。「RX VEGA 64」は「GTX1080」に迫るスコアとなっており、1年前なら「対 NVIDIA」としてハイクラスの面目を保っている様に見える。

しかし、限りなく「GTX1080」に近い最新GPU「GTX1070Ti」に追いつかれており、NVIDIAのハイエンド「GTX1080TI」との差は大きい。

3DMARK  Firestrike Full HD

DirectX11の指標となる「FireStrike」。傾向は「TimeSpy」と大きな変化はない。下位モデルとなる「RX580」からの飛躍率は高く、AMDグラフィックボード内で見ると十分ハイエンドとしての位置づけは保っている。

「GTX1070」と比較すると、一段上のスコアを示しており、「GTX1080」とはほぼ互角だ。「VEGA 64」単体で見ると十分の性能だが、「GTX1080TI」が強すぎてインパクトは小さい。

FF14ベンチマーク 紅蓮の解放者 2K

 NVIDIA Geforceに有利な「ファイナルファンタジー14 紅蓮の解放者」ベンチマーク。Vega64、Vega56共にスコアは振るわない。ここではGTX1080には全く手が届かず、GTX1070にすら追い越されている。下位モデルの「Vega 56」との差が小さい。

FF14ベンチマーク 紅蓮の解放者 4K

4Kでは「Vega64」も健闘し、「GTX1070」は上回っている。しかし「GTX1070Ti」、「GTX1080」には届いていない。FullHDでは飽和して伸びなかった「GTX1080TI」が本領発揮しており、独走している。

国産ライトネットゲーム ベンチマーク

軽量なGPUでも動作する国内ライトオンラインゲーム系のベンチマーク。ここでは4Kやゲーミングモニタによる高フレームレートをターゲットに見ていく。尚、このタイプのベンチマークは負荷が低すぎて、高スコアになるとGPUの性能指標にはなりにくい。あくまで該当ゲームの動作指標と捉えた方が良さそうだ。

ドラゴンクエストX ベンチマーク2K /4K

左:FullHD最高画質 右:4K最高画質

フルHD環境ではスコアは飽和気味で「GTX1050TI」や「RX560」あたりからスコアが伸びない。GTX1060以上は誤差の範囲に収まっている。最新GPUの性能を見るには負荷が軽すぎる様だ。

「4K」ではGPU性能でスコア差が出てるが、「GTX1080」と「GTX1080TI」に差が出ていない事から、20,000あたりが飽和点の様だ。「VEGA64」は飽和スコアに達しており、ここでは「GTX1080」と互角の勝負を演じている。

ファンタシースターオンライン2 ベンチマーク 設定6

PSOはRadeonと相性が悪いベンチーマークでAMD勢はスコアが全く振るわない。ここでは「Vega64」は「GTX1060」並まで落ち込んでおり、「GTX1080」の背中は遥かに遠い。PSO2メインのゲーマーは「Geforce」が良さそうだ。

VRベンチマーク

VRの性能を図るVRMark。低負荷のOrangeroomでは「VEGA64」は「GTX1070」と良い勝負といった所で冴えない。高負荷のBlueRoomでは「GTX1070」を上回っているが、「GTX1080」届いておらず、「GTX1080TI」との差は大きい。

GPGPU性能・ベンチマーク

GPGPU性能を比較するCompbench2.0。Radeonは「OpenCL」,Geforceは「Cuda」で計測している。前世代の「Fiji」ではGeforceと比較しても負けてなかった項目だ。

「VEGA」でもGPGPUでは「GTX1080」と比較すると多くの項目で勝っており、底力を見せている。しかしGTX1080TIとの差は大きい。項目によっては「Vega」が「GTX1080TI」を上回っているが、今のところGPGPU用途で「VEGA 64」を選択する理由は小さそうだ。

実際のゲームFPS 性能比較

ここからは実際のゲーミングでの動作を見ていく。最新のプレイステーション4・XboxOne世代のゲームと、数年前のPS3・Xbox360世代のゲームのFPSを計測してみた。

ベンチマークでは「GTX 1080」と健闘した「RX Vega 64」。ゲーミングにおいての実測でも実力を発揮する事ができるのだろうか。ゲーミングモニタを想定した高リフレッシュレートFullHDと4Kでのパフォーマンスを中心に比較していく。

*以下 GTX1060表記は全て6GB版

PS4・XboxOne世代のゲーム(2K & 4K)

Witcher3 (ウィッチャー3)

今世代AAA級RPGの最高峰となる「ウィッチャー3」。オープンワールドで広大なフィールド、大量のモデルにリアルタイムで変化するライティングは相応に負荷が高い。
フルHDにおいては「Radeon Rx Vega64」は「GTX1080」とほぼ互角の勝負といったところだが、平均120フレーム達成するためには画質の妥協が必要になりそうだ。

4Kでも同様に「GTX1080」とほぼ互角だ。「Vega64」は平均40フレームといったところで、60フレーム安定を達成しているのは「GTX1080TI」のみとなっている。

For Hornar (フォーオナー)

ゲーム内ベンチマークの結果が以下。対人戦メインという事で60フレーム以上安定が求められる本ゲーム。アベレージでは最高品質でも125フレームを超えており、ゲーミングモニタを用いたプレイも期待できる。しかし、NVIDIA WORKSの影響かRadeon勢の伸びが鈍い。

GTX1070~1080TIを見ると150フレームあたりでCPUがボトルネックになって伸びてないのが確認できる。GPUはGTX1070でフルHDは飽和気味のようだ。

4Kでも「GTX1080」に届いておらず、Gefroce有利な傾向が見られる。本ゲームも4K環境において、画質に妥協することなくプレイできるのは「GTX 1080 TI」のみとなっている。

DarkSouls3(ダークソウル3)

上限が60フレームに固定されている和製アクションRPGの「ダークソウル3」。GTX970やRX570程度あればフルHD60フレームで飽和しており大差ない。「VEGA64」も最高品質で安定して60フレームを維持している。

4Kでは「Vega64」は平均フレームは40といったところで、「GTX1080」に明確に負けている。「GTX1080」は平均55フレームでギリギリ4Kでゲームが遊べそうだ。この辺はゲーム体験の差となって結果が出てしまったタイトルだ。
やはり「Geforce GTX 1080 TI」のみが安定した60フレームを実現している。

Batman Arkm Knight (バットマン アーカム・ナイト)

PS4初期タイトルとあって比較的軽量な「バットマンアーカムナイト」のゲーム内ベンチマーク結果が以下。

「Vega」は最高フレームレートはCPU上限に達してるが、アベレージで比較すると「GTX1080」に少し届いていない。しかし平均150フレーム付近と十分以上のパフォーマンスを維持しており、高リフレッシュレートによるゲーミングモニタのプレイが期待できる。

4Kでは「RX Vega 64」は健闘しており、GTX1080を僅かに上回るパフォーマンスを発揮している。平均60フレームを超えており、4Kで十分プレイできる水準に達している。

PS3、Xbox360世代のゲーム (4K)

最新世代のゲームでは「Vega64」では4Kは少し荷は重かった。しかしPS3・Xbox360世代のマルチタイトルなら「Vega64」でも十分ターゲットに入ってくる。ここからは「Radeon RX Vega64」の前世代における4Kゲーミング性能を見ていく。

METAL GEAR SOLID Ⅴ (メタルギアソリッドV-グラウンド・ゼロズ)

PS3とPS4の縦マルチとなるメタルギアソリッド。「Fox Engine」による高品質なグラフィックが特徴だ。「RX580」では高画質60フレームは厳しかったが、「Vega 64」は60フレームを堅持している。とはいえ「GTX1060」でも60フレームを維持できているため、このクラスであれば「Vega64」だと余裕があり、更なる高画質化が狙えそうだ。

BioShock Infinite (バイオショック インフィニット)

ストーリー主体で日本人にも馴染みやすいFPSゲーム。CPU負荷が低いため、4KでもGPU性能が顕著に現れる。「VEGA64」は「RX580」や「GTX1060」とは次元の違う性能を発揮しているが、「GTX1080」には届いていない。

Tomb Raider 2013(トゥームレイダー2013)


PS4版もリリースされている比較的高負荷なタイトル。GTX1060,RX580でも上限フレームに達している事もあり「ベガ 64」は余裕で処理できる。このクラスでは4KでもGPU性能を図るには少し軽すぎる様だ。

GTX1080と張り合えるゲーミング性能

「Radeon RX VEGA 64」はライバルの「Geforce GTX 1080」と比較しても遜色のないゲーム性能と見て良いだろう。多くのタイトルで「GTX1080」とは互角か少し及ばない範囲に収まっている。「Radeon」に最適化されたゲームであれば、「GTX1080」に匹敵するパフォーマンスを見せる。今後の潜在能力には期待できそうだ。

ただし、PS4世代のゲームは4Kで快適にプレイするには力が及ばない。60フレームを維持するためにはグラフィックオプションで相当の妥協を求められる。最新ゲームではWQHD60フレームが限界だろう。AMD GPUで4Kゲーミングは次世代に委ねられる事になる。

PS3,Xbox360世代のゲームなら「Vega64」の性能があれば、4Kモニタを用いたゲーミングも余裕にこなせるようだ。高リフレッシュレートのWQHDゲーミングモニタによるプレイも十分視野に入ってくる。

GPUクロック、温度、GPUクーラーの挙動

GPU-Z情報

GPU-Zは未だ情報が全て入っておらず「Unknow」が多い。GPU・Revisionは発売前から漏れていた「687FC1」となっている。しかしパフォーマンスはリーク情報より向上しており、製品版にあたってドライバが成熟したようだ。

GPU-Z アイドル時と高負荷時の挙動

以下はアイドル時と高負荷時のGPU-ZのSensors情報。

コアクロック・GPU温度・ファンスピード制御

下記のグラフはFF14ベンチの起動からベンチマーク終了後にアイドルに戻るまでのGPUクロックと温度とクーラーファンの挙動グラフ。

コアクロックは工場出荷時の設定でアイドル時は852Mhz、ピークは1630Mhzとスペックどうりの挙動だ。クロックは小刻みに1400Mhzを下限に、概ね1536Mhzを中心に制御されている。

GPU温度はアイドル47度から上昇し続け、ピーク「84度」をリミッターにクロックを控えめに制御することで、コア温度を維持しようとする挙動の様だ。ファンスピードはデフォルトで47%。リファレンス外排気モデルとだけあって、大きな排気音を出している。高負荷時の稼働損は「Geforce GTX1080TI FE」より大きめだ。

また高フレームレートではAMDハイエンド伝統のコイル鳴きを確認している。PCケースが足元など少し離れた場所であれば気になるレベルではないが、デスクの上など耳に近い位置に設置している様であれば、留意しておく必要があるかもしれない。勿論個体差はあると思われる。

デフォルト設定の消費電力比較

ハイエンドでは消費電力が電気料金に直結するだけに重要な要素だ。スペック表の時点で高消費電力、8ピン×2という大食いのイメージがある「Vega64」のワットパフォーマンスに焦点を当てて見ていく。
なお、ここでは工場出荷時設定だ。「RX Vega 64」の各電力モードの消費電力はパフォーマンスと合わせて後述する。

消費電力のリアルタイムログ

システム全体の消費電力のリアルタイムログが以下。アイドル時は小刻みにクロックを制御しているためか、電力も小刻みに上下している。RX570,RX580では見られなかった挙動だけに、高消費電力の「Vega 64」の苦肉の策なのかもしれない。

(左:アイドル 右:フルロード)

アイドル時のシステム全体の消費電力

NVIDIAより少し高めのアイドル消費電力の傾向を示すRadeon。RX500シリーズでも同様でRX550~RX580とレンジが上がるとアイドル時の消費電力も上がっていく。

「Vega64」も例外ではなく、「RX580」から更にアイドル電力が大きくなってしまっている。ライバルのNVIDIAはレンジが上がっても、消費電力をセーブ出来ていただけに、その差は決して小さくない。

高負荷時のシステム全体の消費電力

推奨電源ユニットが「GTX1080TI」の650Wと比較しても、「750W」と100Wも高いスペックを求める「Vega64」。「GTX1080」に背伸びして追いつこうとしたのか、「Vega64」の高負荷時の消費電力は「GTX1080」と比較して150W近く高い。

この数値は「GTX1050TI」を搭載したシステム全体の消費電力に匹敵しており、NVIDIAのハイクラスPCとエントリーPCの2台稼働している状態と並ぶ値となっている。
しかも、この値が比較的消費電力をセーブしている「バランス」モードだ。

各電力モードの消費電力と性能比較

ここまでは工場出荷時のデフォルト設定で「Vega64」の基礎性能とワットパフォーマンスを見てきた。ここからは「Vega 64」が搭載している物理スイッチによる省電力BIOS設定モードとRadeon設定ソフトウェアによるパフォーマンスプロファイルを組み合わせた際の各モードの性能と消費電力を見ていく。

各モードのシステム全体の消費電力比較

電力セーブの影響は相応に大きく、最大ターボと最小セーブでは200W以上の差となっている。最小セーブ状態であれば、GTX1080TIより消費電力は低くなるが、GTX1080には未だ届いていない。Pascalアーキテクチャの「GTX1000」シリーズの省電力性が優秀過ぎる様だ。

各モードのベンチマークスコア比較

ターボモードでリミッターを押し上げても、スコアにそこまで大きな変化はなく、消費電力の代償から得れるパフォーマンスは小さい。ターボモードの挙動を見ると、GPUのコア温度が84度に達すると、クロック抑制制御が強く働いてしまい、クロックが思った以上に伸びていない。空冷の限界かドライバ・ソフトウェアのチューニング不足なのかもしれない。

セーブモードでは消費電力低下に合わせて、パフォーマンスも相応に落ちている。数値的には「RX Vega 56」とほぼ同程度だ。

Radeonが苦手とするFF14ベンチでは各モードのスコア差は誤差の範囲に収まっている。フルターボでもFullHDではGTX1070にすら届かない。4Kでは何とか「Vega 64」が「GTX1070」に勝っているが、「GTX1080」には少し届いていない。

各モードのゲーム実測値

実ゲームの各モードパフォーマンスが以下。概ねベンチマークと同じような傾向を示している。ターボモードでもFPSの上昇値は微増となっており、セーブモードは明確に性能が落ちる。対GTX1080用のGPUとしては工場出荷時のデフォルト設定が一番バランスが良さそうだ。

電気料金比較

「GTX1080」と比較すると消費電力の大きい「Vega 64」。実際の電気料金はどの程度の差が出るのだろうか。

以下のグラフは「ウィチャー3」をGPUフルロード状態で1時間ワットチェッカーで計測した結果から、ヘビーゲーマーを想定した1年間のシステム全体の電気料金を計算して比較したものである。

・1日3時間GPU負荷100%のゲームを365日プレイしたケース比較

工場出荷時のデフォルト設定である220Wの「Vega 64」は「GTX1080」と比較すると年間3,000円程度の差となっている。ターボモードだと4,000円まで広がり、セーブモードであれば数百円差だ。金額として出すと、そこまで大きな差は感じない。

勿論24時間GPUをフル稼働させるマイニングや、クリエイティブのGPUレンダリングなどの用途であれば、年間24,000円~32,000円と無視できない差まで拡大するが、レアケースだろう。

このクラスのGPUを躊躇なく買えるユーザー層を踏まえると、1日3時間ゲームのプレイ時間を確保する事が難しい。実際の年間電力料金の差は、すこし奮発した定食1食分程度といったところではないだろうか。

「Radeon RX Vega64」レビューまとめ

GTX1080に追いつくために背伸びした代償

「Radeon RX Vega 64」は事前リークと比較するとチューニングによって性能向上が見られた。概ね「GTX1080」に十分対向できる性能を見せており、AMDの最強クラスのGPUの面目は保っているといえるだろう。

しかし、「GTX1080」と並ぶために無理なクロックアップが響いたのか、消費電力が増大し、ワットパフォーマンスという観点では「GTX1080」には大きな溝を空けられてしまった。また「GTX1080TI」とは製品カテゴリが違う程の埋めがたい差があり、「最高性能クラスのGPUが欲しい」といったユーザー層の選択肢から「Vega64」は外れそうだ。

Radeonの独自機能


ゲーミング性能だけで見ると「Vega64」は「GTX1080に近い性能だが、GTX1080より価格が高く、消費電力も高いGPU」となり、選ぶ理由が乏しくなる。しかし、Radeonならではの機能である「Fluid motion」や「FreeSync」などが魅力となる様であれば、価格・ランニングコストとのトレードオフで選べない事はなさそうだ。

またHBM2メモリによるキャッシュ機能による将来性や、Vegaの先進設計に最適化されたソフトウェアが主な用途となれば、口実は増える事になる。

発売後のマイニング最適化と特需

リーク情報ではハッシュレート70~100Mhz/sなど高いマイニング性能を期待された「Vega64」だったが、発売後は30Mhz/s 程度という事があり沈静化している。徐々に最適化に進みつつある様だが、今のところは40Mhz/s程度で特需に至る状況ではない様だ。

発売から1ヶ月経て、価格も徐々に低下しつつある。ゲーマーとしては一安心といった所だ。

価格と用途次第では十分選択肢に挙がるVegaシリーズ

現時点では発売直後という事もあり、「Vega 64 空冷版」の価格は概ね7~8万円という感じだ。ライバルの「GTX1080」は1年かけて6万円台まで下落しているが、直近ではGDDR5不足によって、価格が再び上昇しつつある。

消費電力の差は確かに大きいが、毎日3時間ゲームをプレイするようなスタイルであれば年間3,000円程度の差だ。「Vega64」の価格が「GTX1080」と逆転するような事があれば、十分選択肢として候補になりうるかもしれない。

NVIDIA 独走ではつまらない

さて、Fiji以来の久しぶりの 「Radeon」のハイクラスGPUという事で、ややAMDに贔屓目にレビューしてみた。「GTX1080」から発売が1年も遅れているという事もあり、性能面では大きなインパクトはなく、消費電力という課題も大きい。

この1年間、「Vega」の存在でNVIDIAを牽制しつづけ、「Geforce GTX 1080TI」を「Titan X」を越えるような性能でリリースさせた事が、「Vega 」の最大の功績かもしれない。

CPU市場は好調なRyzenシリーズで、宿敵Intelからシェア奪還しつつあるAMD。GPUでは残念ながら今世代はNVIDIA「Geforce」に屈する事になったが、やはりライバルが居ないと業界も盛り上がらない。

2018年は次世代GPUとなる「Navi」シリーズでAMDによる反撃に期待したい。

Gigabyte AMD Radeon RX Vega 64 8 Gグラフィックカード(amazon)

https://androgamer.net/2017/05/28/post-5412/