故障したグラフィックボードをオーブンで焼いて修理・直す「焼きグラボ」

「グラフィックボードはオーブンで焼くと治る」。少し前にネットで話題になった壊れたグラフィックボードの修理方法である。半信半疑で故障したGTX480が手元にあったのでダメ元で試してみたら本当に治ってしまった。今回は壊れたグラボをオーブンで焼いて治す方法を記していく。

なお、本記事は「グラボを焼いて修理する」という行為を推奨するものではなく、あくまで事例として掲載している。やり方を間違えればオーブンレンジを壊すだけでなく、食品を扱うレンジ内で有毒な物質が発生し、健康の被害につながる可能性もある。勿論失敗すると使えなくなる。あくまで自己責任の上 読んで頂きたい。

なぜオーブンでグラフィックボードを焼くと治るのか

発売から8年を経たFermi世代のハイエンドGPU

今回「焼きグラボ」の事例で用いるのは壊れたジャンクグラボ「Gefroce GTX480」のリファレンス版だ。2010年発売のFermi世代のグラフィックボードで見た目も経年劣化で色あせており、ジャンクな風体である。動作未確認のものを安価に入手したが案の定「壊れていた」。

画面に横線+ドライバが認識しない定番の故障

一応起動はするのだが、モニタ出力された画面に細かい横線が入る。Windowsの起動画面には到達しても、ドライバをインストールしても上手くGPUを認識してない。

GPU-Zでステータスを確認するとROP数やメモリサイズなどが正しく認識しておらず、GPUクロックも取得できない。モニタに横線+正しく認識しないという長時間を経たグラボで発生しやすい故障の状態となっている。

オークションなどで「動作未確認」や「BIOSは認識しました」と記載されているものは、このパターンで故障しているモノが多い。

加熱させる事でGPU半田割れを融解→再結合

この状態に陥いると素人ではなかなか修理は難しい。そこでダメ元で「焼きグラボ」による修理を試みた。原理的には長期間の高熱と冷却で半田(ハンダ)のクラック・剥離し、接触不良になっている箇所を再度ハンダを融解させ、くっつける。

・半田が割れて基盤とGPUが接触不良を起こしている

・加熱する事で半田が溶けて再度基盤とGPUが結合される

半田を溶かさなくてもドライヤーで加熱する事で半田が膨張し、再度基盤との隙間をなくす事で治る事もあるが、直ぐ再発してしまう。またオーブンで加熱せずにヒートガンで高温加熱する「リフロー修理」が一般的だが専門器具が必要でハードルは高く、コストをかけても治る保証はない。

オーブンで焼いてグラボを直すというのは上記を、捨てる前に壊れたグラボを「強引」・「お手軽」に一か八かでリフロー修理を済ませてしまう方法である。

 

壊れたビデオカードをオーブンで焼いて修理する方法

1:グラフィックボードからGPUクーラーを取り外す


グラボを焼く際にプラスチックなどが融解すると色々不味い。まずは不要なGPUクーラーとヒートシンクを取り外す必要がある。

まずはネジ回しでグラフィックボードの背面を固定しているネジを全て取り外し分解しよう。なおバックプレート部分のネジは精密ドライバーが必要になるケースもある。PCショップなどで安価で売っているので、自作PCを趣味とするなら1セットあると便利だ。

通常のねじ回しで無理やり回そうとするとネジ山が潰れる可能性があるため留意が必要だ。

全てのネジを外すとGPUクーラーが取り外せるが、この際にクーラーの電源pinが接続されているので外していこう。硬い場合はエンジニアペンチを用いると良い

電源ピンを外すと、上記のようにクーラー部分と基盤が分離する。ヒートシンクはグリクで付着しているため、少し横にズラシながら外すと取れやすい。

映像端子が配置されているブラケットも忘れず外しておくと、アルミが包み易くなる面倒ならそのままでも良い。(狭いオーブンだとコレが引っかかる)

2:サーマルパッド、グリスを除去する

グラフィックボードのGPUチップにはグリスが、基盤にはサーマルパッドが付着している。このままオーブンで焼くと焦げたり、オーブン内で揮発したりして不味いので、これらを除去する。
除去は普通のティッシュで十分だが、無水エタノールを用いると綺麗に除去できる。無水エタノールも錆や水に弱いPCパーツの清掃に役に立つ。長持ちするので1本あれば色々重宝する


今回は適当にティッシュで除去しただけだ。というのも、この工程を丁寧に行っても治る確率が高まるものでもなさそうに思えるためだ。完全に治った事を確認してから丁寧に行う事とする。

ヒートシンク側に付着しているグリスは 仮組み確認の際に利用出来るので、とりあえずそのままにしておく。(本組の際に除去する。)

3:アルミホイルでグラボを包む

アルミホイルを用いてGPUコアのチップ以外を以下のように覆っていく。

GPUコアチップ以外の全てを覆った状態。この面を上側に置いてオーブンで焼くことになる。

4:オーブンを予熱する

グラフィックボードを焼く前におおよそ220℃で4分程度オーブンを予熱する。220度なのは、この温度が半田の融点のためだ。今回はオーブンレンジのオーブン機能を用いているが、オーブントースターでも代用は可能だ。

しかし普段はGPU温度が80℃に達すると大騒ぎする事を踏まえると、これで壊れないGPUは意外と頑丈なのだろうか。

予熱が完了したら、オーブンに丸めたアルミホイルを配置する。下部が過剰に温まらないようにするためらしいが、海外の焼きグラボジサカーは、お構いなしに直接置いている。

丸めたアルミホイルを片方下に配置して、グラボを設置。

5:グラボをオーブンで焼く

いよいよ、グラボを焼いていく。温度は予熱の220℃のままで、まずは2分30秒程度で様子を見る。この際に間違ってレンジ機能で温めてしまわない様に注意しよう。大事故につながる。

なお、今回筆者の場合は2分30秒程度では改善が見られなかったため+3分間焼いた所改善した。この辺のさじ加減には正解はないが、長すぎて壊れる事もあるため、徐々に時間を伸ばしていった方が良いと思われる。

焼き終わったらいきなり取り出すと急冷却に耐えられずクラック(亀裂)が発生するケースがあるらしい。オーブン扉を少しだけ開けて徐々に冷えるのを待つ。 

6:冷やしたグラボをPCに戻して確認する


完全にビデオカードが冷えた事を確認したらヒートシンクとGPUクーラーを装着して組み立てる。

何度か繰り返す事になるケースも多いので、完治した事を確認するまでは仮組み立てで問題ないと思う。

焼いたグラボをセッティング。1度目の「焼き」では改善が見られなかったが、2度めの「焼き」を実行して、PC起動したところ、治ってしまった。

オーブンで焼く前は横線が入ってた状態が完治している。

焼きグラボが治っているか動作確認する

左が焼き前・右が焼き後

GPU-Zで状態表示を確認したところ、焼く前は正しく取得できていなかった情報が正常に表示されている事が確認できる。

ドライバも無事にインストールされ、試しにFF14紅蓮ベンチを流してみたところ問題なく動作してしまった。

一通り正しく動作する事を確認したら、バラして清掃・サーマルパッド・グリスを付けて、本組みする。

焼きグラボベンチマーク結果

7年前のハイエンドであるGTX480のFF14ベンチ紅蓮 FullHD最高画質のスコアは「4753」。一応GTX750TIより高いスコアで、Radeon RX560と良い勝負といったところ。

挙動をみたところGPU温度は90℃近くに達している。昨今のGPUの感覚では温度が高すぎるが、調べてみるとGTX480の仕様のようだ。爆熱で有名なGPUらしい。コアクロックも正常値で全体としては正しく動作しているようである。

焼きグラボのその後

さてオーブンで焼いて治った様に見えた「GTX480」だが、その後のストレステストで再び不安定になった。数時間GPU負荷を100%にしてゲームを起動させたまま放置したところ、突然ブラックアウトしPCがシャットダウンしてしまった。


再起動すると治るのだが、やはり高負荷状態を長時間維持すると再発する有様だ。熱によってコンデンサがダメージを受けてしまったのか、元々のクラックが原因か定かではないが、完全完治という訳にはならなかった。

グラボは焼くと治る(事もある)。しかし焼いて治るだけのは一時的であり、応急修理の程度の認識でいた方が良いだろう。