発売から8年経ても店頭で新品が並ぶ「Geforce 210」。NVIDIAのサイトで2018年になっても現役ラインナップとして扱われる超ローエンドGPUだ。数々のグラフィックボードが販売終息していくなか、今なお新品が流通する本GPUは一体何なんだろうか。
今回は異例のロングリリースとなった「Geforce 210」をレビューしていく。
「NVIDIA Geforce 210」の仕様
長期にわたって流通し続けるローエンドGPU
「Geforce 210」は2009年10月に発売されたNVIDAIのエントリーGPUだ。2018年の現在でも新品のPCパーツとして市場で在庫が流通している。「GeForce 」シリーズの中で「GT」すら冠せず、最もローエンドに位置する扱いとなっている。
製造プロセスは40nm。NVIDA初の40nmプロセスで製造されたGPUで、DirectX10.1対応も本製品が初めてだったりする。GTX480といった「Fermi」世代と同様である。シェーダープロセッサは16しかなく、メモリもDDR3よりさらに古い世代のDDR2で512MB。
発売当初はビデオメモリはDDR2だったが、現在流通している製品はDDR3版が殆どだ。ビデオメモリは近年は1024MBも存在する。最新のエントリーGPU「GT1030」とスペックを比較すると、GPUの進化が伺える。
今なお現役ラインナップ扱いの謎
「Geforce 210」以降も「*10」番台のローエンドGPUは自作PCパーツ市場向けでは「GT610」「GT710」とリリースされているが、いずれも型番の冠に「GT」が付いている。
「GTX」「GT」「GS」が付かない「Geforce」は「Geforce 210」が最後となっている都合上、記載されているだけかもしれないが、「Geforce 210」は2017年のNVIDIAのサイトで現役製品の様に扱われていた。
また本製品は2018年現在も家電量販店、PCパーツ販売店等で普通に「新品」製品として店頭に並んでおり、都心だけでなく地方のPCショップでも見かける事は珍しくない。
「Geforce 210」の価格推移
「Geforce 210」は発売当初から5,000円前後で流通しはじめ、時間の経過とともに徐々に平均価格を下げ、概ね3000円前後に着地していた。「GT710」の発売以降は「Gefroce 210」の流通も在庫のみとなり、減少している。その影響か現在は「GT710」と同程度か、少し高い位だ。
発売から時間を経ているため、中古やジャンクパーツとしても数多く流通しており、1000円程度で入手できる事も珍しくない。型番が古いためか、比較的新しい状態の良い美品ボードが投げ売りされている事も多い。
外観・形状の特徴
「玄人志向 GF210-LE512HD」レビュー
今回レビューに用いるグラフィックボードは玄人志向の「GF210-LE512HD」だ。ロープロファイル対応の形状で1スロットを実現している。「Geforece 210」を「GF210」と省略している。それに習って、本レビューでも省略表記を「GF210」としている。
GF210-LE512HD
インターフェース形状 : PCI Express(2.0) x16 ロープロファイル対応
コアクロック:559MHz
メモリクロック:800MHz
ビデオメモリ:DDR2 512MB
映像出力:VGA×1 / HDMI×1 / DVI×1(Duallink)
補助電源コネクタ:不要
専有PCIスロット:1スロット
カードサイズ:162mm×70mm×17mm
外見は最近のロープロファイルグラフィックボードと大差ない。ハイエンドクラスのGPUでは時流と流行で外見形状も変化しているが、このクラスのGPUはコスト優先のため、今も昔も変化がない。黄金のヒートシンクに覆われており、スーパーローエンドGPUだが少しリッチに見える。
ロープロファイル1スロット補助電源なしという事もあり、ボードサイズは非常にコンパクトだ。PCI-Express搭載メーカーPCでも問題なく収まる機種は多いだろう。
旧型仕様の映像端子構成
流石に古いGPUのため、映像端子の仕様も旧型だ。昨今では見る機会も減ってきたアナログVGA端子とDVI端子が備わっており、古いモニタと接続する際も変換を必要としない。
一応HDMI端子も配置されているため、フルHDまでなら最新のモニタでも利用できる。
HDMI端子では1920×1080@60hzが限界となるが、DVIのデュアルリンク接続時では2560×1600を実現する。VGA端子は取り外し可能で、ロープロファイル時には2段目に展開して利用する。GPUクーラーは2pin仕様で回転数の制御が効かない。
ゲーム系ベンチマーク
では「Geforce 210」のゲーム系ベンチマークを見ていこう。Geforceで「GTX」「GT」「GS」の冠を持たないローエンドGPUの性能は如何ほどのものなのだろうか。
3DMARK Cloud Gate
3dmarkでDirectX10のゲーム性能を図る「Cloud Gate」。エントリーレベルのGPUの性能を図る本ベンチマークだが、「Geforce 210」にとっては このベンチでも重すぎる様だ。最新ローエンドGPUの「GT710」の25%程度のスコアに留まっており、Pascalアーキテクチャの「GT1030」と比較すると10%以下となっている。
3DMARK Firestrike Full HD
「Geforce 210」はDirectX11には未対応のGPUだ。従ってDirectX11対応のFirestrikeは起動すらしない。現在主流のPS4、XboxOneとのマルチPCゲームは基本的にDirectX11ベースとなっている。これらのソフトは「Geforce 210」はプレイできない事を意味する。
3DMARK TimeSpy
TimeSpyはDirectX12対応で勿論「Geforce210」は動作しない。ライバルのAMD「Radeon HD 6450」も同様である。内蔵GPUの「intel HD530」と最新の10番代GPU「GT710」は、低スコアながらも一応起動している。
FF14ベンチマーク 紅蓮の解放者
FullHD 最高画質
FFベンチはDirectX9とDirectX11の両方に対応している。従って「Geforce 210」はDirectX9モードでのみ動作可能だ。以下のグラフは「Geforce 210」のみDirectX9のスコアを採用しているため、あくまで参考値だ。(FF14ベンチはDirectX9モードの方がスコアは高くなる。)
GPUが古すぎると、最新GPUと相対的な性能を図る事すらも、ままならない事が浮かび上がってくる。
国産ライト ネットゲーム 4Kベンチマーク
ここからは国内ネットゲームのベンチマークを見ていく。これらのベンチは負荷が軽すぎてハイエンド帯ではフレームレートが飽和する。純粋なGPU性能というより、ゲーム動作を図る指標程度に捉えておいた方が良いだろう。
ドラゴンクエストX ベンチマーク
左:FullHD最高画質 右:4K最高画質
Willにも対応するソフトという事もあり、GPU負荷は低いドラクエベンチだが、これすらも「Geforce 210」だと重い。GT710の30%、GT1030の10%以下のスコアに留まっている。
解像度を下げ、グラフィック品質を落としても動作可能なスコアに達しなかった。「GF210」は内蔵GPUの数分の1程度の性能と見たほうが良さそうだ。
ファンタシースターオンライン2 設定6 ベンチマーク
軽量はPSOでも「GF210」では動作させる事は困難だ。こちらはGT1030の1%程度のスコアしか出ていない有様だ。現役の3Dゲームは殆ど遊べないと見たほうが良いだろう。
実際のゲームプレイ時のFPS比較・ゲーム性能
ここからは実際のゲームでの動作性能を見ていく。ベンチマークでは厳しい結果となった「Geforce 210」でゲームは本当に無理なのだろうか。
PS4・XboxOne世代のゲーム:1920×1080
この世代のゲームは「DirectX 11」ベースのため、「Geforce 210」は起動すらしない。ゲームに限らず「DirectX 11」を用いたソフト全般は動作しないと見たほうが良いだろう。
PS3、Xbox360世代のゲーミング:1920×1080
PS3世代のゲームは「DirectX9」ベースが多いため「Geforce 210」でも一応起動は出来る。
LIGHTNING RETURNS:FINAL FANTASY XIII(FF13 ライトニング リターンズ )
JRPGの代表作「FF13」の外伝タイトル。比較的軽量なソフトだが「Geforce 210」では10フレームを超える事すら困難でプレイ不可能だ。この時代のゲームでもdGPUなら「GT730」程度の性能は最低でも欲しい。
BioShock Infinite (バイオショック インフィニット)
CPUがボトルネックとならないため、GPU性能がフレームレートに反映しやすい本タイトル。やはり「Geforce 210」では5フレームを超える事すら困難だ。グラフィックボードを外した方がパフォーマンスは高い。
Tomb Raider 2013(トゥームレイダー2013)
PS4と縦マルチとなる本作。これもGF210ではまともに動作しない。他のタイトルと比較すると最新ローエンドGPUも苦戦しており、FPSが伸びない。ビデオメモリに4GB搭載したRX550のみが60フレーム近くに達している。
METAL GEAR SOLID Ⅴ (メタルギアソリッドV-グラウンド・ゼロズ)
事実上最後となるメタルギアソリッドVの序章。GF210は起動すらしない。ここでは最新ローエンドGT1030が平均60FPS付近に達し、テクノロジーの進歩を実感する。
Skyrim(スカイリム)
オープンワールドRPG代表作。GF210は5フレーム以下は変わらない。最新ローエンドGPUであれば、最高画質設定でも60フレームでヌルヌル遊べる事が期待できる。
ゲーミングは厳しいGeforce 210
Geforce210は現在のゲームは勿論、数年前のゲームですら荷が重い様だ。PS4マルチは勿論、PS3マルチでも全く動作しないと見て問題ないだろう。
またGPU負荷が低い軽量ゲームであってもDirectX11に対応していないため、遊べるゲームは市場的には殆どDirectX9以前のタイトルとなる。ゲーム用途に見ると厳しいGPUだ。
「Geforce 210」で出来ること
さて「出来ない事」ばかりを語っていても仕方ない。ここからは「GT210」のGPU能力でも「出来る事」を見ていこう。
ファイナルファンタジーⅪ
かつて日本のMMORPGの代表作となったFF11。15年以上経った現在もサービスが継続されている不屈の名作だ。
本ベンチマークでは4000以上を「とてとて」、7000以上を「計り知れない」となるスコアで、Geforce 210は「最上位の「計り知れない」に迫る「6500」近辺に達する。現在もサービスが続く「ファイナルファンタジーXI」であればGT210で十分遊べる様だ。
尚、FF11のようなDirectX 8.1時代のベンチマークはGPU性能にスケーリングしない。あくまで古いFF11というゲームがどのように動作する指標として見た方が良いだろう。
艦これ(2Dブラウザゲーム)
2DベースのブラウザゲームであればGF210でも問題なく動作するようだ。ブラウザゲームの代表作「艦これ」もChorme上にて極端な処理落ちを体感することなく、遊べる事を確認した。
3Dを用いない2DベースのブラウザゲームであればGF210でも問題なくプレイできる可能性は高い。
動画配信視聴
Fermi以前の古いGPUとなるGeforce210だが、デジタルコンテツ保護企画のHDCPに対応している。HDMIケーブルを用いて、フルHDでNetFlixやHuluなどの動画配信サービスを楽しむ事も可能だ。
対応解像度も1920×1080のリフレッシュレート60Hzに対応しており、ブルーレイ画質までなら問題なく動画を堪能出来る。
GPUクロック、温度、GPUクーラーの挙動
GPU-Z情報
FPUコアはGT218。製造プロセスはGeforce初の40nmだ。メモリはDDR2でHyrix製と表示されている。CUDA、OpenCL、DirectComputeのチェックも一応付いている。
GPU-Z アイドル時と高負荷時の挙動
以下はアイドル時と高負荷時のGPU-ZのSensors情報。
高負荷時のコアクロック・GPU温度の推移
下記のグラフはベンチの起動から終了後にアイドルに戻るまでのGPUクロックと温度とクーラーファンの挙動グラフ。
一応低負荷時にはクロックが抑制され135Mhzとなり、高負荷時は589Mhzに固定される。近年のモダンなGPUのように細かな制御はなく、オンオフの2段階といった具合だ。ローエンドらしくGPU温度は高付加時でも60℃を超える事なく低い値で推移している。
消費電力比較
ここからは「Geforce 210」の消費電力にスポットを当てて見ていく。この超ローエンドGPUは省電力性に価値を見いだせるのだろうか。
システム全体の消費電力のリアルタイムログが以下。(左:アイドル 右:フルロード)
アイドル時のシステム全体の消費電力
昨今のグラフィックボードはアイドル時のコアクロックが抑えられるため、ハイエンドでも消費電力は低い。Geforce210はクロック制御が2段階と製造プロセスが古い40nm世代という事もあり、アイドル時の消費電力は非常に高い。
現行のハイエンドGTX1080Tiを超える消費電力で、水準的には全世代のGTX970と大差ない値となっている。
高負荷時のシステム全体の消費電力
高負荷時にはローエンドGPUらしい低消費電力性を見せており、GT710に迫る省電力性を見せている。ただし、現行ローエンドのGT710には一歩届かず、ライバルAMDのHD6450と良い勝負といった所だ。
電気料金比較
以下は「1日3時間、GPU負荷100%でゲームを1年プレイした」と想定した場合の年間電気料金の比較。さすがにハイエンド帯と比較すると価格差は大きい。FF11のような古いMMORPGをつけっぱなしで長時間遊ぶようなケースでは相応に価値を見いだせるかもしれない。
「Geforce 210」レビューまとめ
新品であれば最新の「GT710」か「GT1030」
現時点でも一応現役ラインナップとなるGeforce210だが、GPU性能、映像端子、消費電力の観点から見ると敢えて選ぶ必要はないGPUだ。同価格で「GT710」が買えるため、よほどの事情がない限りは「GF210」を利用する意味はないといって問題ないだろう。
GT1030であれば、4Kモニタで60hzの表示も可能になる。ロープロファイル、1スロット、補助電源なし、ファンレスといった省スペースやメーカーPCに求められる要素も備えており、GPUパワーも段違いだ。予算が許せるのであれば一考しても良いのではないだろうか。
役割を終えたGPU
内蔵CPUのigpuやAPUの進化によって、ローエンド帯のGPUはNVIDIA、AMD共に力を入れていない。Geforce210も長期間最下位dGPUの役割を担っていたが、店頭在庫のみとなっており、役割は終えつつある。
とはいえ、CPUにGPU機能を備えていないRyzenシリーズや古いPCの延命などで一定の需要はローエンド帯にはあると思われる。最新アーキテクチャによるGT1010やRX540といったGPUの自作市場への投入も期待したいところだ。
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