AMDの「Radeon RX470」は2016年8月にリリースされたPolarisアーキテックチャ採用のミドルレンジGPUだ。ライバルNVIDIAの「GTX970」,「GTX1060 3GB」の競合として展開され、後継モデルの「RX570」がリリースされる2017年5月頃は、16,000円代も珍しくないお手頃価格になり、高コスパGPUとして自作ユーザーに重宝されていた。
しかし、その後のマイニングブームによって価格が急高騰。ゲーマーには無縁のGPUと成り果ててしまう。今回はそんなマイニングに翻弄された不遇の「RADEON RX470」をレビューしていく。
「Radeon RX 470」の仕様
Polarisアーキテクチャの第2の矢
「RX470」はPoralisアーキテクチャとしては「RX480」に続く、第2段目のGPUとなる。GPUコアは「RX480」と同様の「Polaris 10」を採用するが、シェーダープロセッサ数とクロック、メモリ帯域周りを若干カットしたモデルとなっている。
現在は後継モデルとなる「RX570」がリリースされたが、基本的にはクロックが上昇しただけで大きな変化はない。ライバルのNVIDIAとは旧モデル「GTX970」「GTX1060 3GB」あたりが競合製品となるが、メモリ容量が「RX 470」は4GBと8GBとなっており、若干のアドバンテージがあった。
RX570登場によるRX470の価格下落とマイニングによる暴騰
RX470は発売当初は4GB版で2万円台後半、8GB版は3万円台前半といった価格で、GTX1060と比較しても割安感はなく、注目度も高くなかった。
しかし、発売から半年程度で順調に価格を下げ、「RX570」が発売される頃には、4GBは最安値で15,000円~16,000円代も珍しくない状況が続き、コスト重視の自作ユーザー層に人気が出始めていた。
しかし、その後はマイニングブームの到来で価格が一気に暴騰。一時期は4万円程度まで上昇し、中古市場でも3万円代で取引されている。国内でのGPUマイニング需要が終息すると、2万円程度まで戻したが、現在は海外からの需要もあり、再び高止まりといったところだ。
ちなみにRX480も当時は19,800円といった特価で暫く投げ売り状態となっていた。マイニングによる高騰が無ければ、このクラスのGPUが多くのPCゲーマーに安価に行き渡っていたかもしれない。
外観・形状の特徴
PowerColor Red Devil Radeon RX 470 4GB GDDR5
今回レビューに用いるグラフィックボードはPowerColorのRED DEVILシリーズとなる「Red Devil Radeon RX 470 4GB GDDR5 (AXRX 470 4GBD5-3DH/OC)」となる。
同形状の製品が玄人志向からもOEM品としてリリースされているが、メモリクロックや補助電源のピン数の仕様、本体デザインなどで若干の差異がある様だ。OCモデルでブーストクロックが1206MHzから1270MHzと増強されている。
型番:AXRX 470 4GBD5-3DH/OC
インターフェース形状:PCI Express(3.0) x16
コアクロック:ブースト 1,270MHz
メモリクロック:7,000MHz
ビデオメモリ:GDDR5 4GB
映像出力:HDMI2.0b/DisplayPort 1.4/Dual Link-DVI
補助電源コネクタ:8ピン×1
専有PCIスロット:2スロット
推奨電源容量:450W以上
カードサイズ:255mm x 143 mm x 38 mm
付属品・外観
付属品には補助電源変換ピンなどはなく、ドライバとクイックマニュアル、「DEVIL」のデザインが施された謎のカードだけだ。
カードカバーはブラックだが、玄人志向モデルとの相違点として、アクセントカラーにレッドが配色されている。ファン・クーラーは9cm×2連でGPU温度が低い場合は、完全静止するセミファンレス仕様だ。
側面には「DEVIL」ロゴが配置されていおり、「中2心」満載だ。設置するとロゴの文字は天地逆転してしまう。LEDで光るギミックはない。
サイズ比較
リファレンスサイズのグラフィックボードと比較すると、「Red Devil Radeon RX 470」は全体的に一回り大きい事が確認できる。公称サイズはカード長 25.5cm 幅 14.3 cm 厚み 3.8cm。
ブラケット側面が大きく横に迫り出したデザインとなっており、カバーが2cm程度とはみ出る。しかし補助電源の位置はカバーの内側に配置されているため、実質専有幅は他のビデオカードと比較しても大差ない
最新モニタから旧型モニタまで対応できる映像端子構成
ディスプレイポートのバージョンは規格上では8K-60Hzや4k-120Hz、HDRをサポートする「DisplayPort 1.4」を3つ搭載。「HDMI」は4K/60Hz映像出力、HDR対応、横長の変則アスペクト比モニタに対応した「HDMI2.0b」に対応した最新仕様を1つ搭載している。
ミドルレンジ帯では旧システムでの需要もあるためか、DVI-D端子が1つ搭載されており、古いモニタにも対応可能だ。
補助電源・バックプレート
リファレンスデザインのRX470は6ピン×1で収まっているが、OCモデルだけあって8ピン×1に増強されている。
バックプレートが搭載されており、重量による基盤の変形・半田クラックを防ぐ。
ゲーム系ベンチマーク
では「RX470」のゲーム系ベンチマークを見ていこう。最新GPUであるRX570,RX580、競合のGTX1060、GTX1070、GTX970,GTX980との比較を中心にチェックしていく。発売から2年を経たミドルレンジGPUはまだ戦えるのだろうか。
3DMARK TimeSpy
最新のDirectX12ゲーム性能を図る「TimeSpy」。「RX470」は全体としては2018年現在でもミドルレンジGPUのポジションを保っており、GPU性能に遜色はなさそうだ。
GTX1070やVega56などのハイレンジ帯との差は大きいが、GTX1060との差は小さい。OCモデルという事もあって、最新GPU「RX570」との差は誤差の範疇に留まっている。
3DMARK Firestrike Full HD
現在主流のDirectX11のゲーム性能を図るフルHD「FireStrike」でも同様の傾向で、前世代のベストセラーGPU「GTX970」を上回ったスコアを出している。GTX1060 3GB,RX570と比較しても遜色はなく、現役で戦えるGPU性能を持っている事が示唆される。
FF14ベンチマーク 紅蓮の解放者
・FullHD最高品質
Radeonは若干Geforceと比較して、低いスコアになる傾向が強いFF14ベンチ。GTX1060と比較すると遅れを取っているが、GTX970とは互角の勝負を演じている。やはりRX570と比較しても誤差の範疇だ。
・4K最高品質
4K最高品質でも「RX470」は「やや快適」判定を得る事ができ、画質オプションに多少の妥協を加える事で、FF14などの古めの設計のゲームであれば4Kゲーミングも視野に入ってきそうだ。ここでもOCモデルという事で後継モデルのRX570を少し上回る結果となった。
国産ライト ネットゲーム 4Kベンチマーク
ここからはエントリーモデルで需要の大きい国内ネットゲームのベンチマークを見ていく。
ドラゴンクエストX ベンチマーク
左:FullHD最高画質 右:4K最高画質
ドラクエ10ベンチはGPU負荷が軽すぎてフルHDではスコアが20000以上は、スコアが飽和し、CPU・メモリ依存となる。GTX1050Tiで飽和点に達しており、それ以上のGPU性能を持ったグラフィックボードではフレームレートが伸びない。
最新GPUのミドルレンジ以降は誤差の範疇のスコア差に留まっている。
4Kでは相応にGPU性能がスコアとなって現れる。RX470は「とても快適」判定となり、4Kでも十分高フレームレートで遊べることが期待できる。RX570のスコアが少し振るわないのは、ドライバの最適化不足と思われるが原因は不明だ。
ファンタシースターオンライン2 ベンチマーク
設定6 フルHD
PSO2はRadeon勢はスコアが全く振るわず、Geforce勢と比較すると1グレード下がる結果となっている。純粋にRadeonへの最適化不足と見たほうが良いだろう。とはいえスコア的には最高画質設定でも十分快適に動作する判定が得られている。
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GPGPUベンチマーク
動画や3Dなどクリエイティブソフトで用いられるGPGPU性能を図る「CompBench2.0」。
シェーダー数が底力となって現れているのか、CUDAを用いてもGTX1060は結果が余り振るわない。反面Radeon勢は項目によってブレはあるものの、全体的に好成績だ。RX470も最新ミドルレンジGPUと比較しても遜色はない。
VRベンチマーク
VRMark
公式には「VR」用ではない「RX470」だが、VRMarkではVR基準の「GTX970」を超えたスコアを示しており、一般的なVRゲームソフトであれば十分動作可能である事が期待できる。
Steam VR pefomance Test
SteamVRの性能指標となるベンチマーク。OCモデルという事もあり「RX470」はVRレディ判定となった。SteamVRの基準GPUとなるGTX970に近い値を示しており、GPU性能はVRに耐えうる事が示唆されている
実際のゲームプレイ時のFPS比較・ゲーム性能
ここからは実際のゲーミングでの動作を見ていく。最新のプレイステーション4・XboxOne世代のフルHD/4Kゲーミング性能と、数年前のPS3・Xbox360世代の4KゲームのFPSを計測してみた。尚、以下からはビデオメモリは「RX470=4GB」 「RX570=4GB」 「RX580=8GB」となっている。
PS4・XboxOne世代のゲーム:1920×1080 & 4K
Witcher3 (ウィッチャー3)
オープンワールドRPGの傑作「ウィッチャー3」。広大なフィールドで相応に負荷も高いタイトルだが、RX470は最高画質でも平均60FPSに達している。全体としてミドルレンジGPU帯を保っており、最新製品と比較しても大きな遜色はない。
このクラスのGPUは4Kは流石に性能不足だ。GTX1080クラスでも4Kでは快適とはいえず、まともに遊べるのはGTX1080Tiのみとなっている。
DarkSouls3(ダークソウル3)
ダークソウル3は上限フレームレートが60フレームに制限されるため、一定のGPU性能以上はゲーム体験に大きな差が出ないタイトルだ。RX470もほぼ60フレーム近辺を維持しており、フルHDであれば十分快適に遊べるパフォーマンスを発揮している。
4Kになると負荷が増大し、多くのGPUで60フレームを維持できてなくなる。ミドルレンジ帯は全滅で、GTX1080、GTX1070Tiクラスで何とか遊べるといった具合だ。
For Hornar (フォーオナー)
ここでもOCのRX470はRX570と大差ない性能である事が伺える。Geforceの最適化が強いタイトルであり、Radeon勢は少し遅れを取っているが、RX470でも平均70フレームを超えており、フルHD最高画質でも十分快適に遊べる事が期待できる。
4Kではミドル帯は全滅だ。RX470はかつてのハイエンド「GTX780」と同程度の性能がある事が示唆されている。
Batman Arkm Knight (バットマン アーカム・ナイト)
初期タイトルで負荷が軽いためか、RX470は平均でも100FPSに達しており、高リフレッシュレートモニタを利用したゲーミングも視野に入ってくる。ここではGTX1060を上回る結果を出しており、RX470のGPU性能が2018年現在でも通用することが分かる。
ここではGTX1060 3GB、RX470 4GB 、RX570 4GBはメモリ容量がボトルネックとなっているのかスコアが伸びない。ビデオメモリ6GBのGTX1060 6GBだけがGPU性能を発揮できている
PS3、Xbox360世代の4Kゲーミング:3840×2160
ここからは前世代にあたるPS3、Xbox360とのマルチタイトルゲーミング性能を3840×2160ドット設定で見ていく。最新ゲームでは4Kは動作困難だったが、この世代ではRX470でも4Kゲーミングが視野に入ってくる。
METAL GEAR SOLID Ⅴ (メタルギアソリッドV-グラウンド・ゼロズ)
小島監督のコナミの最後の仕事となったメタルギアソリッドVシリーズの序章。PS4との縦マルチもあり、高負荷では相応に重い。RX470も60フレーム堅持は厳しいが、RX570,GTX1060 3GBと同等程度の性能を示している。
画質オプションを多少調整することで、RX470でも4Kゲーミングが期待できる。
LIGHTNING RETURNS:FINAL FANTASY XIII(FF13 ライトニング リターンズ )
JRPGの代名詞「FF13」のスピンオフ作品。GPU負荷は軽く、RX470のGPU性能があれば、60FPSを堅持できている。GTX1050TiやGTX780では微妙に足りないロケーションが多いが、最新GPUのミドルレンジ以上は問題なさそうだ。
BioShock Infinite (バイオショック インフィニット)
上限フレームがなく、CPUもボトルネックになりにくいため、GPU性能の地力が出るバイオショック3。RX470は平均60フレームに迫る勢いで、OCの効果もありRX570を上回っている。GTX1060と比較しても殆ど遜色はない。
最新ミドルレンジ製品と比較しても遜色ないGPU性能
RX470は前モデルの製品だが、最新ミドルレンジ帯の製品であるRX570、GTX1060 3GBと比較しても遜色のないGPU性能を発揮している。フルHDであれば高画質60フレームがターゲットとなり、比較的重めのタイトルでも多少の画質オプション調整を行う事で、快適にプレイ可能となる。
PS3世代のゲームであれば4Kで60フレームのゲーミングも視野に入る。RX470のGPU性能があれば、Steamでセールが多い数年前のタイトルを、コンシュマーゲームでは体験できない高画質・高フレームレートで遊べる事が期待できる。
消費電力比較
ここからは「RX470」の消費電力にスポットを当ててみていく。電力が高めのRadeonでOCモデルであり懸念点の1つだ。
システム全体の消費電力のリアルタイムログが以下。(左:アイドル 右:フルロード)
アイドル時のシステム全体の消費電力
OCモデルであるためかRX470は、他のミドルレンジGPUと比較しても1段高めのアイドル消費電力となった。後継でクロックアップモデルのRX570と比較しても高く、OCモデルの代償となっている。
高負荷時のシステム全体の消費電力
高負荷時にはOCモデルのデメリットが更に顕著となって現れてくる。OCモデルのRX470は同等性能のGTX1060 3GBと比較すると100W近く高い消費電力となってしまった。とはえいGTX970等と比較すると、そこまで悪くなく、PascalアーキテクチャのGTX1000シリーズが優秀すぎると見ても良いだろう。
電気料金比較
以下は「1日3時間、GPU負荷100%でゲームを1年プレイした」と想定した場合の年間電気料金の比較。GTX1060 3GBと比較すると年間で2,000円程度の差となる。3年利用すると新作ゲーム1本分が買えてしまう。
「Radeon RX 470」追試レビューまとめ
最新ミドルレンジ製品と肩を並べるゲーミング性能
「RX470」はOCモデルであれば最新GPUの「RX570」と遜色はなく、ライバルのGTX1060と比較しても見劣りしないパフォーマンスを発揮している。オーバークロックだと、その代償に消費電力はGTX1060より高いが、GTX970などと比較すると許容範囲内といった所だ。
マイニングによる価格暴騰と放出される中古品
当初はミドルレンジ帯ではコストパフォーマンスが最高となったRX470だが、マイニングによって価格が暴騰し、ゲーマーには見向きもされないGPUとなった。だが、マイニングブームが沈静化した頃には中古ショップでもチラホラ見かけるようになり、地方では普通に2万円以内で店頭に並んでいる事も珍しくない。
近々、マイニング落ちの大量のRX470の中古品が流通しそうだが、CPUと違い部品点数の多いグラフィックボードは一定のリスクもある消耗品だ。購入するのであれば中古でも保証のある店舗が良いだろう。
マイニングによって翻弄されたRX470
RX470はゲーム用として生まれたが、マイニングで酷使され、売り飛ばされる不遇のグラフィックボードとなった。高いコストパフォーマンスで多くのゲーマーに高画質フルHDのゲーム体験を与えるはずだったが、その多くはゲーム用途として稼働せずに消えつつある。余生はゲーム用グラフィックボードとして利用するのも悪くないのかもしれない。