「Geforce GTX980」は2014年9月に発売された前世代MaxwellアーキテクチャのハイクラスGPUだ。PascalアーキテクチャのGTX1080の登場によって、ミドルレンジクラスに転落している。
しかし、マイニングブームとメモリ不足により、最新ミドルレンジGPUの価格が暴投し、手が届かなくなると、中古市場に溢れれるGTX980に再び脚光が当たる事となった。発売から3年以上を経た旧型ハイエンドモデルは最新GPUと比較しても遜色はないのだろうか。
今回は全世代のハイエンド「GEFORCE GTX 980」をレビューしていく。
「NVIDIA Geforce GTX980」の仕様
第2世代MaxwellとなるGTX900シリーズ
Geforce GTX980は第2世代MaxwellアーキテクチャとなるGM204コアを搭載した前世代のミドルハイ~ハイレンジGPUだ。「第1世代」Maxwellアーキテクチャに基づいて設計されたGM107を採用した「GTX750Ti」が一足はやくにリリースされており、そのため、GTX900シリーズはすべて「第2世代」Maxwellとなった。
シェーダープロセッサは2048と現行ミドルレンジの倍近い規模だが、ベースクロックはかなり低い。また製造プロセスも1世代前の28mmとなり、TDPは165Wと相応に高い。メモリは現行のハイエンドクラスに実装されている「GDDR5X」ではなく「GDDR5」となる。
GTX1000シリーズの価格高騰
従来のパターンであれば、新アーキテクチャのグラフィックボードが投入されると、前世代の価格は大きく値下がり、ハイエンドクラス1/2~1/3程度に相場は暴落する。実際、GTX1080の発売から数ヶ月は順調に価格を下げていた。
しかし、マイニングブームによってライバルのRadeon RX 400、500シリーズの価格が高騰。メモリ不足も重なり、それに引っ張られる形でGTX1000シリーズも急上昇し、発売直後よりも高い価格で推移する異常事態が続くことになる。
結果、前世代であるGTX960~GTX980Tiも需要が高まり、中古市場においての価格も値上がり気味だ。
外観・形状の特徴
リファレンスカード「GeForece GTX 980」
今回レビューに用いるグラフィックボードはNVIDIAのリファレンスカードとなるGTX980だ。この頃は「Founders Edition」といった扱いではなく、単に「リファレンスカード」「リファレンスモデル」のような呼ばれ方をしていた。
GeForece GTX 980搭載グラフィックカード(Amazon)
インターフェース形状:PCI Express(3.0) x16
コアクロック:ベース1127MHz ブースト1216MHz
メモリクロック:7000MHz
ビデオメモリ:GDDR5 4GB
映像出力:HDMI2.0/DisplayPort 1.2/Dual Link-DVI
補助電源コネクタ:6ピン×2
専有PCIスロット:2スロット
推奨電源容量:500W以上
カードサイズ:280 mm x 112 mm x 41.4 mm
リファレンスモデルということで、昨今のGeforceのミドルハイ以上ではお馴染みの形状で、シルバーとブラックのツートンカラーを基調となるデザイン+シロッコファンによる外排気モデルだ。
歴代リファレンスモデル比較
左からGTX1080Ti、中央GTX980,左GTX780の各世代のリファレンスモデルの比較。GTX780とGTX980では大きなデザインの変更はないが、ナンバー部分やヒートシンクのプラスチックカバーに若干の変化が確認できる。
重量も1030gと1Kg超えで、メタルの材質と相まってズッシリと重い。カード長はブラケットを除くと26.7mmとそれぞれ差は殆どない。
最新モニタから旧型モニタまで対応できる映像端子構成
ディスプレイポートのバージョンは4k-60Hzをサポートする「DisplayPort 1.2」を3つ搭載。「HDMI」は4K/60Hz映像出力、に対応した「HDMI2.0」を1つ搭載している。
あわせて、上段にDVI端子が備わっており、古いモニタにも対応できる。
下からGTX780,GTX980,GTX1080Ti。映像端子のトレンドの変化が垣間見える。最新のハイエンドではDVIは廃止され、エアフローの確保が優先されている。
シロッコファンによるGPUクーラー
外排気ブロワーファンということでシロッコファンによる冷却クーラーが搭載されている。熱せられた空気は映像端子付近のスリットからケース外に排出されるため、ケース内部の温度が上昇せず、幅広いPC環境でも安定した性能を維持することができる。
補助電源・バックプレート
補助電源は6ピン×2。GTX1080が8ピン×1で収まっている事を踏まえると、同レンジでも現行モデルと比較するとやや消費電力が高めである事が伺える。(Maxwellが電力食いというよりPascalが省電力すぎる感が強い)
背面はバックプレートで補強されており、1Kg超の重量と長期間・高熱運用によるハードウェア面のトラブルを抑制できる。
ゲーム系ベンチマーク
では「Geforce GTX 1080」のゲーム系ベンチマークを見ていこう。現行のハイレンジGPUに加えて、ミドルレンジの「GTX1060 6GB」「GTX1060 3GB」、ライバルAMDの「RX580」「RX570」との比較を中心に見ていく。前世代のハイエンドは、どのポジションに収まっているのだろうか。
*ビデオメモリはRX580 8GB 、RX570 4GB、GTX960 4GB、RX550 4GB
3DMARK TimeSpy
最新のDirectX12ゲーム性能を図る「TimeSpy」。GTX980はGTX1060 3GBを上回り、GTX1060 6GBとほぼ同等スコアだ。RX580には少し届かないが、RX570と比較すると明確に上だ。全体として、最新のミドルレンジクラスと同じパフォーマンスを発揮することが期待できる。
3DMARK Firestrike Full HD
現在主流のDirectX11のゲーム性能を図るフルHD「FireStrike」。ここでは旧ハイエンドらしく、GTX1060、RX580より高いパフォーマンスを見せている。流石にGTX1070以降との差は大きいが、フルHDをターゲットにしたミドルレンジクラスと同程度のゲーム体験が味わえそうだ。
FF14ベンチマーク 紅蓮の解放者
・FullHD最高品質
PS3、Xbox360世代の古めのゲーム性能の指標となるFF14ベンチ。GTX980はGTX1060 3GB以上GTX1060 6GB未満といったところで、3DMARKと差異はない。Geforce最適化が強い趣がありRadeon勢はスコアが振るわない。
・4K最高品質
4K最高品質でもGTX980は最高画質で「快適」判定を得ることができている。FF14クラスのゲームであればグラフィックオプションを多少調整すれば、4Kプレイも十分視野に入りそうだ。
国産ライト ネットゲーム 4Kベンチマーク
ここからはGPU負荷が軽量でDirectX9ベースのタイトルが多い、国内ネットゲームのベンチマークを見ていく。
ドラゴンクエストX ベンチマーク
左:FullHD最高画質 右:4K最高画質
ドラクエ10ベンチはGPU負荷が軽すぎてフルHDではスコアが20000以上は、CPUとメモリベンチマークとなる。GTX980はスコア2万超えの飽和点に達しており、フルHDだとオーバースペック気味である事が伺える。 4K解像度だと相応にGPU性能の差がスコアに出る。GTX980はかつてのハイエンドの底力を見せ、現行のミドルレンジを寄せ付けない。スコアも15000に迫る値に達しており、4Kでも十分快適に遊べそうだ。
ファンタシースターオンライン2 設定6 ベンチマーク
GTX980は最高画質設定でも5万を軽く超えるスコアを出しており、高リフレッシュレートのゲーミングモニタでのプレイも視野に入ってくる。Radeonの最適化が甘いのか、RX580,RX570ともにスコアが全く振るわない。
GPGPUベンチマーク
動画や3Dなどクリエイティブソフトで用いられるGPGPU性能を図る「CompBench2.0」。
シェーダー数が響くのか、GTX980はGTX1060 6GBと比較しても、各スコアで上回っている。RX580と比較すると、RadeonとGeforceで得手不得手があるのか、分が悪い。
VRベンチマーク
VRMark
GTX980はVRレディの指標となるスコア5000を大きく上回り、7500に迫っている。最新GPUのミドルレンジと比較すると、やや伸び悩んでいるが、一般的なVRソフトであれば十分対応可能になることが示唆されている。
高負荷のBlueRoomでも傾向に大きな差はない。このクラスになるとGTX1080Tiでも実用範囲内に収まらないことから、現行GPUでもまだ荷が重すぎるようだ。
Steam VR pefomance Test
SteamVRの性能指標となるベンチマーク。GTX980は基準となるスコア「6」を大きく上回り、SteamVRのゲームソフトの多くがプレイ出来ることが期待される。ライバルのRX580,RX570より安定して高い。
「忠実度」は「11」でカンストするが、「テストされたフレーム」はVRレディ以上の場合、数字が伸び続ける。GTX980は最新のハイエンドほどの余裕はないので、内部解像度はデフォルトが限界だろう。
実際のゲームプレイ時のFPS比較・ゲーム性能
ここからは実際のゲーミングでの動作を見ていく。最新のプレイステーション4・XboxOne世代のフルHD/4Kゲーミング性能と、数年前のPS3・Xbox360世代の4KゲームのFPSを計測してみた。
PS4・XboxOne世代のゲーム:1920×1080 & 4K
Witcher3 (ウィッチャー3)
オープンワールドRPGの最高峰ウィッチャー3。広大なフィールドと膨大なオブジェ・NPC、リアルタイムのライティング制御など相応に負荷の高いタイトルだ。GTX980は最高画質でもアベレージで60フレームを維持しており、フルHDであれば高画質・快適に遊べることが期待できる。
GTX980は4Kでは流石に荷が重いが、GTX1060はおろか、GTX1080でも60フレームに達してないため止む終えない。まともに遊べるGPUがGTX1080Tiのみとなっており、4KのGPU負荷の高さが伺える。
DarkSouls3(ダークソウル3)
ダークソウル3は上限フレームレートが60フレームに制限される。GTX980はフルHD最高画質であれば、現行のミドルレンジGPUと同等レベルで、60フレームをターゲットに快適に遊べそうだ。
4Kは流石に厳しく、GTX980はもとより、GTX1060,RX580ともに30フレームを維持することすら厳しい。やはりGTX1080Tiのみが安定して60フレームを維持できている。
For Hornar (フォーオナー)
GTX980がGTX1060,RX580を上回るフレームレートを叩き出している。フルHDであれば平均でも90FPSに達し、最高画質で十分快適にプレイできることが伺える。最新のエントリークラスのGTX1050Tiなどは相手になっていない。
4KではGTX1060 3GBがビデオメモリ不足で脱落するなか、4GBを保持するGTX980は大きな落ち込みはない。しかし、ピーク時は4GBをあふれるのかGTX1060 6GBやRX580 8GBに大きく劣る結果となっている。
Batman Arkm Knight (バットマン アーカム・ナイト)
初期タイトルで負荷が軽く、GTX980は最高画質でも平均で毎秒100フレームを超えている。グラフィックオプション次第では高リフレッシュレートのゲーミングモニタを用いたプレイも視野に入ってきそうだ。
ここでもメモリ容量がボトルネックとなりGTX1060 3GBのフレームが落ち込んでいる。GTX980 4GBも少し不足しているのか、GTX1060 6GBと比較すると落ち込みが大きい。しかし、ミドルレンジGPUはビデオメモリ以前にGPU性能が不足しており、いずれも4Kでは実用的なフレームレートを維持できていない。
PS3、Xbox360世代の4Kゲーミング:3840×2160
ここからは前世代にあたるPS3、Xbox360とのマルチタイトルゲーミング性能を3840×2160ドット設定で見ていく。1世代前のゲームとはいえ4Kは相応に負荷が高い。GTX980はどこまで快適に遊べるのだろうか。
METAL GEAR SOLID Ⅴ (メタルギアソリッドV-グラウンド・ゼロズ)
小島監督のコナミの最後の仕事となったメタルギアソリッドVシリーズの序章。GTX980は平均でほぼ60フレーム近くを維持できてる。GTX1060 3GBやRX580が安定して60フレームを維持できておらず、GTX980はまだ負けていない。
LIGHTNING RETURNS:FINAL FANTASY XIII(FF13 ライトニング リターンズ )
JRPGの代名詞FF13。負荷が比較的軽く、現行世代のミドルレンジGPU以上であれば4Kで安定してプレイできるようだ。GTX980でもコンソールで体験できない高画質・高解像度でFF13シリーズの完結作を体験できる。
BioShock Infinite (バイオショック インフィニット)
上限フレームがなく、CPUもボトルネックになりにくいため、GPU性能の地力が出るバイオショック3。GTX980は4Kでも平均55フレームに達し、描画設定を調整すれば十分快適に遊べそうだ。RX570と比較すると1ランク上のゲーム体験が期待できる。
Tomb Raider 2013(トゥームレイダー2013)
PS4との縦マルチとなる本作。GTX970やRX570ではボトムフレームが少し安定しないが、GTX980のGPU性能があれば、安定して60フレーム付近を維持できている。安価に購入できるので、3作目の完結作となる「シャドウ オブ ザ トゥームレイダー」の前に予習しておくのも悪くないだろう。
現行のミドルレンジと比較しても遜色はないGPU性能
GTX980は現行のGTX1060 3GB,GTX1060 6GB、RX580、RX570といったミドルレンジGPU と比較しても遜色のないGPU性能を維持できている。フルHD60フレームなら高画質~最高画質設定で快適にプレイできる底力を現在も維持できているようだ。
PS3世代のマルチタイトルは4K最高画質で60フレーム安定できる。RX570やGTX1060 3GBでは微妙に力が不足しているタイトルでも、GTX980なら60フレームを維持できる局面は少なくない。
GTX980はゲーミングモニタや4Kモニタ、WQHDモニタを用いないのであれば、2018年現在でも十分現役として使えるGPUとみて問題なさそうだ。
GPUクロック、温度、GPUクーラーの挙動
GPU-Z情報
GPUコアは第二世代Maxwellとなる「GM204」。製造プロセスは1世代前の28nmだ。GDDR5はSamsung製と表示されている。
GPU-Z アイドル時と高負荷時の挙動
以下はアイドル時と高負荷時のGPU-ZのSensors情報。
高負荷時のコアクロック・GPU温度・ファンスピードの推移
下記のグラフはゲームの起動から30分のGPU温度・ファンスピード・コアクロックの推移。リラレンスモデルということで、コア温度は80度まで上昇し、それに伴ってクロックも抑制されていることがわかる。
クロックの抑制による性能低下は微々たるものだが、静音性やピーク性能を踏まえると、各社オリジナルファンが良いだろう。ただし、消費電力とのトレードオフになるので留意も必要だ。
消費電力比較
ここからは「GTX 980」の消費電力にスポットを当てて見ていく。前世代のハイエンドは現行モデルと比較して、どの程度の差があるのだろうか
システム全体の消費電力のリアルタイムログが以下。(左:アイドル 右:フルロード)
アイドル時のシステム全体の消費電力
近年のモデルはアイドル時は消費電力が抑制される仕組みが導入されている。GTX980も過去のハイエンドモデルであるGTX480~GTX680と比較するとセーブされている。しかしPascalアーキテクチャとなる最新GPUのGTX1000シリーズと比較すると、10W近く高い消費電力となる。
高負荷時のシステム全体の消費電力
高負荷時はGTX980は相応に高い消費電力となる。同GPU性能のGTX1060 6GBと比較すると70W~80W近く高い電力消費だ。しかしライバルのRadeon RX580と比較すると、優位性を維持しており、GPU性能・省電力性双方で遜色はない。
電気料金比較
以下は「1日3時間、GPU負荷100%でゲームを1年プレイした」と想定した場合の年間電気料金の比較。GTX1060と比べて1,000円程度コストが高くなるが、RX580とは、ほぼ同程度だ。多くのユーザーは1日3時間も遊べないので、実際の差は小さくなるだろう
「Geforce GTX980」レビューまとめ
現行のミドルレンジ相当のGPU性能でRX580と同じ省電力性
「GeForce GTX980」はGTX1060と同性能だが、消費電力では大きく上回る。しかしRX580と、ほぼ同性能・同省電力性を維持しており、2018年でも十分ミドルレンジGPUとして通用するパフォーマンスは維持しているようだ。
さすがにGTX1070以上のハイレンジGPUとの差は大きいが、フルHDであれば、GTX980でも十分遊べると見て良いだろう。
グラフィックボードの価格高騰と次世代GPU
2017年中頃から始まったマイニングとメモリ不足によるグラフィックボードの高騰によって、現行GPUの価格が暴騰したままとなっている。従来であれば、そろそろ現れる次世代GPUの登場に合わせて特価セールが始まる時期だが、今回は高値のままだ。
発売から4年近く経つ当時のハイエンドクラスとなるGTX980。次世代GPUを搭載したグラフィックボードの価格も高値で推移することが予想されている。GTX980は もう暫く、現役GPUとして戦う事になりそうだ。
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