「1スロット・ファンレス・ロープロファイル」これらの要素を2つ兼ね備えるグラフィックボードは多いが、3つの要素全てを兼ね備えるボードは少ない。
今回は「1スロットでファンレスかつロープロフィル」なGT710搭載の「MSI GT 710 1GD3H LP」をレビューしていく。このローエンドGPUは静音PCや古いPCのアップデートに有効なのだろうか
「Geforce GT 710」の仕様
市場に流通する最もローエンドなNVIDA GPU
「Geforce GT 710」は現在NVIDIAで現役流通しているdGPUで最もローエンドに位置するGPUチップだ。一応「Geforce 210」もラインナップとして存在しているが、市場在庫のみで価格も上昇気味だ。事実上、GT710が最廉価となっている。
コアはKeplerアーキテクチャを採用し、GTX900シリーズ同様の製造プロセス28mm世代となっている。GT730と同じGK208コアを採用し、シェーダー数が大幅にカットされている。
最安値クラスを支えるDDR3版GT710
2017年にPascalアーキテクチャを採用した新エントリー「GT1030」が投入されているが、1万円近い価格で競合しない。GT710はDDR3+1GBなら3000円程度で流通しており、最安値クラスを支えている。
一応、GF210、GT610の余剰在庫も店頭に存在するが、価格はGT710の最安値より普通に高い。こえらの旧製品は性能も大幅に落ちるため、新品で購入するならGT710で問題ないだろう。
ファンレスグラフィックボード「MSI GT 710 1GD3H LP」
今回レビューに用いるグラフィックボードはMSI「 GeForce GT 710 グラフィックボード搭載 グラフィックボード MSI GT 710 1GD3H LP」。700番台のGeforceだがGT710の発売は遅く、本製品も2016年になってからとなる。
MSI ファンレス・ロープロファイル対応 GeForce GT 710 グラフィックカード メモリ1GBモデル GT710 1GD3H LP(amazon)
インターフェース形状:PCI Express(2.0) x16(スピードは×8)
コアクロック:954MHz
メモリクロック:1,600MHz
ビデオメモリ:DDR3 1GB
映像出力:HDMI/D-SUB(VGA)/DVI-D
補助電源コネクタ:不要
カードサイズ:14.6cm×6.9cm×1.9cm
専有PCIスロット:1スロット
外観・形状の特徴
付属品
ローエンドらしく梱包は簡易だ。ダンボールにエアパッキンで覆うのみの、コンスと重視。付属品はドライバ・マニュアル・LowProfileブラケットとなっている。
低コストながらもロープロファイルは2枚付属しており、ロープロファイル利用時でも3つ全ての映像端子を無理なく利用できるようになっている。
外観
1スロットかつロープロファイルかつファンレス、そして補助電源不要という事でサイズはdGPUの中では限界に近いほど小さい。
黒いヒートシンクに大きく「MSI」のロゴが配置されている。昨今流行りの派手なカラー配色はなく、質実剛健といったデザインだ。
ローエンドという事で基盤の部品点数も少ない。1スロットサイズでヒートシンクも薄い。
カードサイズ
カード長は14.6cm。幅は6.9cm、高さ1.9cm。メーカー製PCやmini-ITXケースでもdGPUが増設可能な機種・ケースであれば、ほぼ問題なく収まるだろう。
ヒートシンクも1スロットに収まっており、隣接スロットにはみ出ていない様に見える。
映像端子構成
旧型PC構成からのアップデート需要が多いためか、2016年発売のビデオボードでは珍しくVGA映像端子が備わっている。HDMIはバージョンが古いため4K表示時は30Hzに限定される。
DVI出力のデュアルリンクを用いる事で2560×1600で60hzに対応する。
VGA(D-SUB端子)はブラケットから外せるようになっている。LowProfile利用時は2段目に配置することで、3つの端子全てを利用する事ができる。
補助電源なし・バックプレートなし
ローエンドクラスなので補助電源は不要だ。軽量なので勿論補強バックプレートなどはない。
ゲーム系ベンチマーク
ではファンレス仕様の「Geforce GT710」のゲーム系ベンチマークを見ていこう。比較対象として、代表的なエントリーGPUとファン仕様のGT710である「玄人志向 GF-GT710-E1GB/LP」を用いている。
玄人志向 ビデオカードGEFORCE GT 710搭載 ロープロファイル 空冷FAN GF-GT710-E1GB/LP(amazon)
3DMARK timespy
最新DirectX12のゲーム性能指標となるTimeSpy。ファンレス仕様でもファン有り仕様のGT710とスコアに差は出ていない。GT730の50%といったところでGT1030の15%以下だ。
ライバルのAMD Radeon HD6450はDirectX12に対応すらしてない事を踏まえると、動くだけでも良しといったところだろうか。
3DMARK Firestrike Full HD
現在主流のDirectX11のゲーム性能を図るフルHD「FireStrike」。ここでもファンレスGT710とファン有りGT710で性能差は出ていない。CPU内蔵GPUである「intel HD530」以下となっており、Skylake以降のCPUを搭載したシステムの場合、GT710を増設することでGPU性能が低下する事が示唆される。
FF14ベンチマーク 紅蓮の解放者
前世代のPS3クラスゲーミング性能を図るFF14ベンチ。最低でもGTX750Ti程度は欲しいゲームという事もあり、GT710は「動作困難」判定となる。他のベンチマークと傾向に大きな差異はない。
国産ライト ネットゲーム 4Kベンチマーク
軽量な国内ネットゲームのベンチマークを見ていく。これらのゲームがファンレスで動作するのであれば一定のゲーム用途に希望が持てる。
ドラゴンクエストX ベンチマーク
左:FullHD最高画質 右:4K最高画質
軽量なドラクエだがフルHD最高画質では「やや重い」判定となり、快適なプレイとは言い難い。しかし解像度と画質設定を落とすと、「とても快適」判定となる。Wiil U相当のグラフィックなら十分楽しめそうだ。
ファンタシースターオンライン2 設定6 ベンチマーク
PSOもフルHDの最高画質設定「6」はかなり重い。GT710はファンレス・ファン有り双方で厳しい。しかし画質設定を限界まで落とす事でスコアは「266」→「55961」と一気に向上する。グラフィック設定次第では十分遊べそうだ。
実際のゲームプレイのFPS計測、性能比較
ここからは実際のゲーミングでの動作を見ていく。最新のプレイステーション4・XboxOne世代のゲームと、数年前のPS3・Xbox360世代のゲームのFPSを計測してみた。
PS4・XboxOne世代のゲーム:1920×1080
Witcher3 (ウィッチャー3)
現時点で最高峰のオープンワールドRPG。GT710では最低画質でも起動する事すら困難だ。ファン有りGT710と比較すると若干フレームレートが低下しているが、元がもとなので誤差の範疇である可能性が高い。
For Hornar (フォーオナー)
GT710ファンレスは10フレーム以下でゲームプレイは困難だ。この世代のゲームを遊ぶのであれば最低でもGT1030、できればGTX1050以上は欲しい。
DarkSouls3(ダークソウル3)
ここではファンレスGT710がファン有りを僅かに上回っている。とはいえ10フレームに満たない水準のなので誤差の範疇と見て良いだろう。GT710はCPU内蔵GPU以下のパフォーマンスに収まっている。
Batman Arkm Knight (バットマン アーカム・ナイト)
GT710は起動するのすら困難だ。フレームレートが低すぎて操作が難しいが何とかハングせず完走はしている。intelHD530では起動しなかった。
PS3、Xbox360世代のFullHDゲーミング:1920×1080
METAL GEAR SOLID Ⅴ (メタルギアソリッドV-グラウンド・ゼロズ)
小島プロダクションによる最終メタルギア・ソリッド。相応に重くファンレスGT710、ファン有りGT710双方で10フレームに達していない。GT1030クラスになると60フレーム近辺に達しており、ローエンドクラスの進化を実感する。
LIGHTNING RETURNS:FINAL FANTASY XIII(FF13 ライトニング リターンズ )
和製RRGの代表作FF13。ここでもファン有りと大差ないパフォーマンスをGT710は示しているが、プレイは困難そうだ。最低でもGT730クラスの性能は欲しい。
BioShock Infinite (バイオショック インフィニット)
やはりファンレスGT710はプレイが難しい事に変化はない。RX550が高いパフォーマンスを見せており、PS3世代のゲームなら最新ローエンドであれば余裕で遊べる事が伺える。
Tomb Raider 2013(トゥームレイダー2013)
GT710は10フレームを越えるのが精一杯といったところで、ファンレス・ファン有りに大きな違いはなさそうだ。基本的にはGPU性能が低すぎて、この10年以内の大型コンソールゲームはプレイ困難とみて問題ないだろう。
Skyrim (スカイリム)
初期のPS3タイトルという事もあり、軽量なのかファンレスGT710はアベレージで20FPSに達している。画像解像度と画質を落とす事で何とか遊べそうだ。たまたまなのかSkyrimだけGT710がintel HD530を上回っている。
性能は損なっていないファンレスGT710
全体としてGT710というGPUの性能事態がゲーミングには向いていないため、この10年で発売された大型タイトルは快適に遊べない。しかし「GPUクーラーファン有りのGT710」と「GPUクーラーファンなしのGT710」を比較しても、明確な差が出ていない事から、ファンレスながらも「MSI GT 710 1GD3H LP」は性能を損なっていない事が伺える。
GPUクロック、温度の推移
ファンレスゆえにGPUコアの温度は気になるところだ。ここからはヒートシンクの冷却能力に焦点を当ててみていく。
GPU-Z情報
GPUコアはGK208。KeplerアーキテクチャのローエンドGPUだ。製造プロセスも28nmと一世代古い。メモリはサムソン製のDDR3の1GBとなっている。
GPU-Z アイドル時と高負荷時の挙動
以下はアイドル時と高負荷時のGPU-ZのSensors情報。
高負荷時のコアクロック・GPU温度・ファンスピードの推移
ここからは高負荷時のGPUコア温度とクロックの推移を見てく。ファンレスはPCケース内のエアフローによって大きく左右されるので3パターンテストしてみた。テスト方法はSkyrimを起動させてGPU負荷を100%にして放置している。
1:格安スリムPCケース(Micro ATX)
KEIAN(恵安) の電源付き格安PCケース「KT-MB103」。LowProfile対応のスリムPCケースだ。GTX1050TiやGT1030、RX550のロープロファイルビデオボードくらいなら、一般的なデスクトップPCと何ら問題なく運用出来ていた。
KEIAN PCケース 300W電源搭載 Micro ATX / ITXケース ブラック KT-MB103(amazon)
ケースファンがなく、トップフロー型のCPUクーラーでビデオボード部分に対流が発生しずらい構造上、ファンレス状態では冷却能力が不十分の様だ。開始直後から徐々にGPUコア温度は上昇し続け、最終的には92度に達してしまった。
コアクロックが落ちるような現象は発生していないが、流石に90度を越えるのは寿命や耐久面を踏まえると精神衛生上良くないだろう。
2:デスクトップPCケース・UTXケース
1基のケースファン+サイドフロー型のPCケース構成。ケース内に空気の流れが発生し、ビデオボードを通って排出される。ITXケースの場合、試行錯誤が必要になるがグラフィックボードを配置する場合は同様の工夫が必要とされる。
CPUクーラーとケースファンの空気の対流がファンレスGT710ビデオボードを経由して、ケース外に排出されるため、ヒートシンクに溜まった熱が放出されている様だ。GPUのコア温度は58度付近を境に上昇が止まり、あとは小刻みに変化しながら維持されている。
これなら長時間の高負荷利用も問題なさそうだ。
*フルタワーケース、ITXケースで差異は殆どなし
3:ファン有りGT710
最後はGPUクーラーを搭載したGT710ビデオボードの玄人志向「GF-GT710-E1GB/LP」のGPUコアの推移を参考程度に見てみる。構成は「1」のKEIANスリムPCケースだ。
玄人志向 ビデオカードGEFORCE GT 710搭載 ロープロファイル 空冷FAN GF-GT710-E1GB/LP(amazon)
クーラーがあるだけで、ローエンドらしいGPUコア温度の推移を示しており、最高でも46度程度に留まっている。廉価な商品でファンスピードを制御しないため、低負荷でも常にファン音がなる事になるが、PCケース内の状態を問わず、高負荷でも安全に運用できそうだ。
総じて見るとファンレスビデオカード「MSI GT 710 1GD3H LP」はPCケース内のエアフローにコア温度は強く依存しそうだ。ヒートシンクの熱を逃がすように配置しなければ、コア温度の上昇は許容を超えそうな値に達する。
消費電力比較
低消費電力が期待される「Geforce GT710」。ここからは省電力性にスポットを当ててみていく。
システム全体の消費電力のリアルタイムログが以下。(左:アイドル 右:フルロード)
アイドル時のシステム全体の消費電力
前世代にGPUとだけあって、アイドル時の消費電力はやや高い。GPUの消費電力が非常に小さくなるため、相対的にCPUやHDD、SDDなどのストレージの消費電力の支配力が高まる。
GT710クラスになるとdGPUを増設しない状態と大きな差が出ないため、誤差が発生し易いのか、ファンレスとファン有りのGT710で数Wの乖離が発生している。2世代前のコアという事もあって、最新Pascalアーキテクチャのミドルレンジと大きな差はない。
高負荷時のシステム全体の消費電力
高負荷時ではローエンドらしい省電力性を見せており、CPU内蔵GPUと比較しても負けていない。CPUの内蔵GPUコアに負荷がかからない、電力が低下するのだろうか。高負荷でもデスクトップPC構成でシステム全体で70W程度に留まっている。
以下は1年間毎日3時間ゲームをプレイしたと想定したゲーマーのPCに払う電気料金比較。最も電気料金の高いVega64と比較すると1万円近くと無視できない価格差だ。
ファンレスGT710 レビューまとめ
ファンレスのGT710搭載「MSI GT 710 1GD3H LP」はヒートシンクのコストを抑えすぎたのか、PCケースのエアフローが良好でない場合、ファンレスを維持できない程のGPU温度の上昇が見られる。
運用するのであれば、CPUクーラーやケースファンの空気の流れ、グラフィックボード付近のエアフローを相応に考慮する必要がありそうだ。メーカー製PCやスリムタイプのPCケースを用いる場合はエアフローを万全に期すか、GPUクーラーが搭載されたGT710を選択したほうが良いだろう。
GT710は現在流通しているNVIDIAのグラフィックボードで最も廉価なGPUだが、2世代前の設計という事でGPU能力はゲームをプレイするには厳しい。
しかしGT1030であれば、DisplayPort1.4やHDMI2.0b に対応しており、4K60hzなどの表示も可能で、PS4時代のゲームも画質設定を落とす事で30フレームをターゲットに遊ぶ事もえきる。PS3時代であれば高画質60フレームも視野に入ってくる。
クーラーを許容できるのであればシングルスロット+ロープロファイル、ファンレスなら2スロット仕様となるが、ケース内空間に余裕があれば検討しても良いだろう。
MSI NVIDIA GeForce GT710搭載 GDDR3 1GB グラフィックスボード VD5932 GT710 1GD3H LP(amazon)