「RADEON RX560」をファンレス化。ゲーミングとFluid Motion動画を静音で堪能してみる

Radeonのファンレスグラフィックボードが発売されない。かつてはミドルレンジ以下でコンスタンスに各社からリリースされていたRadeonのファンレスモデルだが、近年は大幅に減少しており、2018年現在では国内の取扱はない。

「ないなら作ってしまおう」という事で今回はRadeon RX560をファンレス化した事例を掲載しておく。フルスペックPoralis11となったRX560はファンレスでも実用に耐えうるのだろうか。

消えゆくファンレスRadeonグラボ

ファンレス化したRX560の概要

今回ファンレス化した「Radeon RX 560 4GB」はAMDの現行ミドルレンジモデルだ。前モデルではシェーダープロセッサ数が896に削減されていたが、RX560でフルスペックPolaris11となる1024に増量されている。RX580、RX570がクロックの微増に留まったリネームモデルである事と比較すると、前モデルからの飛躍率は大きい。

メモリは2GBと4GB版が存在し、直近ではシェーダーモデルをRX460同等の896に削った劣化560も市場に出回っているため、購入する際は留意が必要だ。

ファンレスグラフィックボードの現状

一昔まえはファンレスグラフィックボードにも一定の需要があり、Radeon,Geforceともにミドルレンジクラスでも各社からバラエティあふれるラインナップでリリースされていた。しかし、CPU内蔵GPUであるiGPUやAPUの進化に伴い、市場は急速に縮小。この5年間でリリースされるラインナップ数は激減している、

近年ではXFX社が海外でRX460のファンレスモデルをリリースしているが国内での取扱はない。RX500シリーズでもXFXからアナウンスがあったが、結局リリースの確認は出来てない。

現在のファンレスグラフィックボードは、GeforceのミドルレンジGTX1050TiとローエンドのGT1030やGT710のファンレスモデルがリリースしている程度に留まっている。しかし、FluidMotionなどで動画鑑賞に強いRadeonでは静音性を追求したいところだ。

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用いるパーツの外観・形状の特徴

玄人志向「RD-RX560-E4GB」をチョイス

今回ファンレス化するにあたって、元としたモデルは玄人志向の「RD-RX560-E4GB」だ。これはPowerColor社の「AXRX 560 4GBD5-DHV2 / OC」のOEMモデルと思われ、ファン中央部のロゴシールが除去されている。幸いにも「玄人志向」シールも貼られておらず、PCケースのデザインに拘る自作ユーザーでも安心だ。

本モデルを選択した理由はコンデンサの配置がダイから離れており、ヒートシンクを装着する際に干渉の問題が起こりにくいためだ。


玄人志向 ビデオカード RADEON RX560搭載 RD-RX560-E4GB(amazon)

インターフェース形状:PCI Express(3.0) x16
コアクロック:ブースト1180MHz
メモリクロック:7000MHz
ビデオメモリ:GDDR5 4GB
映像出力:HDMI2.0/DisplayPort 1.2/Dual Link-DVI
補助電源コネクタ:なし
専有PCIスロット:2スロット
推奨電源容量:400W以上
カードサイズ:224 mm x 126.2 mm x 70 mm


ファンレス化に用いたVGAヒートシンク

今回ファンレス化に用いたVGAヒートシンクは「Accelero S2」だ。2007年に発売された古い製品だが、RX550,RX560のネジのピッチ幅と一致しており流用が可能だ。

後継モデルの「S3」も所有しているが、こちらはバックプレート部にもオプションのヒートシンクを備えており、冷却能力は高い。現状市場に流通しているのは最新の「S3」のみとなる。今回は「S2」でも必要十分だったので「S3」はTDPの更に高いGPUで利用するために回している。

ファンレスに特価したVGAクーラーは現在も入手も不可能ではないが流通在庫は急速に減少気味である。興味ある人は早めに確保しておいたほうが良いだろう。

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元々ファンレス運用を想定したヒートシンクで、フィンの幅が大きい。密集している方が放熱面積が取れるが、クーラーファンがないファンレス運用の場合、空気が流れなくなる。フィン幅が広いほうがファンレスに向いているらしい。

ファンレス化への加工方法

ここからはファンレス化の手順を記しておく。まずはファンレス化する前に元のグラフィックボードの動作確認・ベンチマーク・FPSを取得しておこう。ファンレス化した後に、適切に動作しているかの目安となるためだ。

グラフィックボードのネジの取り外しは通常のドライバーでは形状が合わない場合もある。PCショップなどで安価に精密ドライバーセットが売っているので、自作PCを趣味とするなら1セットあると便利だ。

JVMAC 59in1 精密特殊ドライバーセット(amazon)

クーラーを固定しているネジを外す

まずはグラフィックボードを裏返し、背面のクーラーを固定しているネジを4箇所取り外す

ネジを外すとクーラーが取り外せるが、ファン用の電源ケーブルを外す必要がある。脱線しないように注意深く取り外そう。

グリスを除去する

GPUダイにはグリスが付着しているので除去清掃しよう。水だと錆る危険性があるので、無水エタノールを用いて除去する。

VRAM用の冷却ヒートシンクを装着する

クーラーを除去すると何らかの方法でVRAM部分も冷却する必要がある。小型のヒートシンクと接着用の熱伝導テープが安価に販売されているので用いる。これはグラボのみならず、他の自作PCパーツにも流用できるので1セットあれば便利だ。

今回はグラフィックボードに付属してあるヒートシンクを流用した。熱伝導テープでヒートシンクをしっかり固定しよう。

ヒートシンクに搭載されているプラスチックキャップを除去する。周辺パーツとの干渉を避けるためだ。

ヒートシンクをねじで固定したら完成。基本的にはCPUクーラーの交換と同程度の工作難度だ。初めてでも問題なく交換できる。

ファンレス化後の外観

Accelero S2は2スロット仕様だ。ファンレス化しても専有スロット数は変わらないが、エアフローを想定すると隣接2スロットは空けておきたい。

奥行きと高さを抑えた分、側面に大きく迫り出した形状となっている。補助電源コネクタ以上の専有スペースとなっているため、スリムタイプのPCケースでは警戒が必要となる。

GPUのダイの設置位置に左右されるがプラケットのネジ位置から5cmはスペースがほしい

GTX1080FE版との比較。サイズ感に大きな違いはないが、やはり横に広い印象だ。

手間から見ても若干「しなっている」事が確認できた。経年劣化だろうか。

ヒートパイプが斜め上方向に出ており、ギリギリ基盤部品と接触を回避できている。この辺は汎用ヒートシンクの強みだ。ファンレスモデルから剥がしたヒートシンクだと干渉しやすい。

側面はプラスチックカバーで覆われている。元々は「Accelero S2」のシールを貼ってあったのだが、チープに見えるので剥がした記憶がある。

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ゲーム系ベンチマーク

ではファンレス化した「Radeon RX560」が性能を維持できているか見ていこう。フルタワータイプのPCケースに収めて測定したベンチマーク結果を計測していく。

3DMARK TimeSpy 

最新のDirectX12ゲーム性能を図る「TimeSpy」。ファンレスRX560は若干の数値の低下が見られる。誤差の範囲と言えなくはないが、OCモデルである事を踏まえるとサーマルスロットリングがかかっている可能性がある。

3DMARK  Firestrike Full HD

現在主流のDirectX11のゲーム性能を図るフルHD「FireStrike」。こちらも同様で空冷RX560と比較するとスコアが伸び切っていないが、ほぼ誤差程度の範疇だ。ライバルのGTX1050に肉薄しているがGTX1050Tiとの差は小さくない。

FF14ベンチマーク 紅蓮の解放者

・FullHD最高品質

PS3、Xbox360世代の古めのゲーム性能の指標となるFF14ベンチ。ここではファンレスでもほぼスペックどおりの数値を示している。比較的長いベンチマークだが、サーマルスロットリングによるパフォーマンスの低下は確認できない。

国産ライト ネットゲーム 4Kベンチマーク

ここからはGPU負荷が軽量でDirectX9ベースのタイトルが多い、国内ネットゲームのベンチマークを見ていく。

ドラゴンクエストX ベンチマーク

左:FullHD最高画質 右:4K最高画質

ドラクエ10ベンチはGPU負荷が軽すぎてフルHDではスコアが20000以上は、CPUとメモリベンチマークとなる。ほぼスペックどおりの数値を示しており、ファンレスでも適切な性能を発揮している事が確認できる。 4K解像度では何故か空冷版を大きく引き伸ばす結果となった。OCモデルの本領が発揮できたのか原因は定かではないが、GPU本来の性能を発揮できている様だ。

ファンタシースターオンライン2 設定6 ベンチマーク

こちらでもファンレスモデルでもほぼスペックどおりのスコアを弾きだしている。Radeonとの相性がすこぶる悪いのか、GTX1050、GTX1050Tiとの差が大きい。PSO2がメインであればGeforceを選択するのが賢明だろう。

VRベンチマーク

VRMark

ファンレスRX560は、空冷RX560と比較してほぼ同じスコアとなった。Oculus RiftはGTX1050Tiが下限の動作環境となる。RX560では空冷OCでもギリギリ届かない。VRを快適に遊ぶならGTX1070程度は欲しい。

実際のゲームプレイ時のFPS比較・ゲーム性能

ここからは実際のゲーミングでの動作を見ていく。最新のプレイステーション4・XboxOne世代のフルHD/4Kゲーミング性能と、数年前のPS3・Xbox360世代の4KゲームのFPSを計測してみた。ファンレスRX560は長時間GPU負荷が高まるゲーミングにおいて性能を維持する事ができるのだろうか。

PS4・XboxOne世代のゲーム:1920×1080 & 4K

Witcher3 (ウィッチャー3)

ファンレスRX560はOCモデルという事もあってか、空冷RX560より僅かながら高いFPSを示した。サーマルスロットリングで性能が低下する事なく、本来のGPU性能を発揮している事が確認できる。GTX1050では30FPSを堅持していたが、RX560では最高画質設定は少し荷が重い様だ。

For Hornar (フォーオナー)

僅かながら空冷RX560に遅れを取っているものの、ほぼ誤差の範囲に収まっている。ファンレスグラボながらも最高画質でも30FPSを維持できている事が確認できる。PS4だと画質を落とした状態で轟音になる事を踏まえると、なかなか悪くない。

DarkSouls3(ダークソウル3)

ファンレスながらも空冷RX560と比較しても遜色がない。PS4では画質を低下させた状態でも30FPSを下回る本作だが、RX560なら無音で最高画質で30FPSを堅持している。画質オプションを調整する事でフレームレートは更なる高みに持っていく事も可能だ。

Batman Arkm Knight (バットマン アーカム・ナイト)


バットマンアーカムナイトは初期PS4タイトルで負荷も軽い。ファンレスRX560は最高画質でも30FPSを維持できている。設定次第では60FPSでのプレイも狙えそうだ。

ファンレスでPS4世代のゲームが高画質で遊べる

長時間稼働するゲーミングにおいてもサーマルスロットリングが起きずにRX560本来のGPU能力を維持できているようだ。PS4ではPCより低い画質設定で30FPSでも、かなりのファン音が耳につく。ファンレス化によってPS4より静かで高画質なゲームマシンとして利用できるアドバンテージは大きい。

GPUクロック、温度の挙動

ここからは実際のGPUの温度推移に着目してみていこう。測定にはタワー型PCに18cmの大型ケースファンを前面に2基装着したマシンで900rpm(25dBA)で回した状態となる。CPUクーラーは初代虎徹だ。つまり前面の大型ファンから吸気した空気がグラボを通って後方から排出されているエアフローとなっている。600rpm(18dBA)でも問題ないが、ノイズ音量の体感差と冷却効果にギャップがあったため、900rpm(25dBA)を採用している。

GPU-Z情報

GPUコアはBaffinと表示されている。Shaders数が1024にRX460から増加している事も確認できる。メモリはHynix製と表記されている。

GPU-Z アイドル時と高負荷時の挙動

以下はアイドル時(左)と高負荷時(右)のGPU-ZのSensors情報。

高負荷時のコアクロック・GPU温度推移

下記のグラフはゲームの起動から30分のGPU温度・ファンスピード・コアクロックの推移。ファンレスながらも70度に達する事はなく、69度をピークで維持されている。クロックは起動直後はブースト最大の1180Mhzに達するが、GPU温度の上昇を検知すると概ね1150前後で安定といった具合だ。

冬場ならケースファンは600rpm(18dBA)程度まで落としても問題なさそうだが、現環境では900rpm(25dBA)程度がギリギリに見える。

FluidMotion再生時のコアクロック・GPU温度の推移

下記のグラフは2K素材の動画をFluidMotionで2Kサイズで鑑賞ループした際のGPUクロックと温度の推移。FluidMotionは動作中でもGPUクロックは低い状態で維持されるため、GPU温度も大きく上がらない。概ね36度程度で上限に達し、以降は安定する。

以下は2K素材の動画をFluidMotionで4Kモニタでフルスクリーンでループ鑑賞した際の推移。2Kサイズより若干GPU負荷が上がるためかクロックは上昇し、GPU温度も43度程度に達する。とはいえ、全くの許容範囲だ。

懸念であったファンレス化によるGPUの温度であったが、一定のエアフローが確保されているPCケースであれば、ゲーミング・FluidMotion動画でも全く問題ない事が伺える。高負荷時はグラフィックボードの騒音が一番目立つ。これが無音になるだけで、PC全体の静音化は大きく前進する。静かなPCはコンテンツにも集中しやすい。

消費電力比較

ここからは「ファンレスRX560」の消費電力にスポットを当てて見ていく。

システム全体の消費電力のリアルタイムログが以下。(左:アイドル 右:フルロード)

アイドル時のシステム全体の消費電力

近年のGPUはアイドル時の消費電力は低い。ライバルのGTX1050Ti、GTX1050と比較しても遜色なく、普段使いのPCとしても省電力性に優れている事が伺える。

高負荷時のシステム全体の消費電力

OCモデルという事で若干高めに推移しているが、誤差の範疇だ。ここでもGTX1050Ti,GTX1050と比較しても、遜色なく、ワットパフォーマンスが悪いRadeonの印象を払拭している。価格、性能、ワッパともにバランスでGeforceと比較しても大きく見劣りはしない良GPUに仕上がっている。

Radeon RX560ファンレス化まとめ

エアフローさえ問題なければ常用可能

RX560は上位モデルと違い、ワッパも悪くなくPCケースのエアフローに大きな問題を抱えてなければ十分ファンレスで運用が可能となった。GTX1050Tiには少し劣るがPS4世代のゲームをコンシュマーより高画質で30FPS安定、ファンレスな静音で遊べるアドバンテージは大きい。

60FPSまでならCPUも低発熱モデルで十分間に合う。完全ファンレスは難度が高すぎるが、大型のケースファンを上手く利用することでファンレスCPUクーラーと組み合わせて試してみるのも悪くないのかもしれない。

当記事では省略しているが、RX550でもファンレスを試している。(というより元々はRX550を先にファンレス化している)FluidMotionで動画鑑賞しつつ、ライトなゲームを静音PCで楽しめるファンレスRadeonに挑戦してみるのも悪くないのではないだろうか。

iGPUやAPUの進化によってファンレスグラフィックボードは衰退した。しかし巨大なヒートシンクに覆われたグラフィックボードはロマンだ。次世代では是非ミドルレンジクラスのRadeonのファンレスグラフィックボードのリリースに期待したい。

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