「GeForce GTX 1660 Ti」は2019年2月にNVIDIAが発売したGPUだ。Turingアーキテクチャの肝となる「RTコア」と「Tensorコア」を排したミドルレンジクラスとなる。コストパフォーマンスを重視した新世代の「GTX」はゲーマーの新しい選択肢となりうるのだろうか。今回は、「今、快適に遊べればそれで良い」と割り切ったグラフィックボード「GTX 1660Ti」をレビューしていく。
「GeForce GTX 1660 Ti」の仕様
Turing初の「RT Core 」なしのGPU
「GTX 1660Ti」は最新アーキテクチャの「Turing」を採用したミドルレンジクラスのGPUだ。「Turing」の特徴となるリアルタイムレイトレーシングを実現する「RT Core」と深層学習アクセラレーターとなる「Tensor Core」を削除しており、Geforceの冠も「RTX」ではなく、従来どおりの「GTX」と差別化されている。
Turingの廉価版という位置づけだが、メモリはGDDR6と高速化しており、ベースクロックも前世代と比較するとクロックアップされている。12nm化の効果もありCUDAコアが1536に達しつつも、TDPは120Wに収まっており、高いワットパフォーマンスが期待できる。
GeForce GTX 1660 Tiの基礎GPU性能
詳細なベンチマークを見る前に、まずは「GTX1660Ti」の基礎GPU性能を把握しておこう。(他のベンチマーク、各種ゲームのFPS比較の詳細は後述している)
3DMARK Firestrike Full HD
現在主流のDirectX11のゲーム性能を図るフルHD「FireStrike」。「GTX1660Ti」は前世代のミドルハイ「GTX1070」相当の性能を示している。ライバルAMDのミドルレンジ「RX590」と互角で、「Vega56」には届かない。とはいえ、Maxewll世代のハイエンド「GTX980Ti」に匹敵する性能を叩き出しており、現行のPCゲームであれば十分に快適に遊べることが期待できる。
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外観・形状の特徴
「MSI GeForce GTX 1660 Ti AERO ITX 6G OC」レビュー
今回レビューに用いるグラフィックボードはMSIの「GeForce GTX 1660 Ti AERO ITX 6G OC」だ。ITXが示すとおり、コンパクトなPCケースでも収まるショートサイズモデルとなっている。
MSI GeForce GTX 1660 Ti AERO ITX 6G OC グラフィックスボード (amazon)
インターフェース形状:PCI Express(3.0) x16
ブーストクロック:1830 MHz
メモリクロック: 12Gbps
ビデオメモリ:GDDR6 6GB
映像出力:HDMI2.0b×1/Displayport1.4×1/DL-DVI-D×1
補助電源コネクタ:8ピン×1
専有PCIスロット:2スロット
カードサイズ:178mm x 126mm x 41mm
外観
外観は前世代モデルのAero ITXと全く違いはなく、ブラックをベースとしたシンプルなデザインだ。GTX1060モデルと見た目から違いを見分けるのは難しいが、側面から見えるヒートパイプのカラーと補助電源のピン数で判別する事は可能だ。
サイズ比較
リファレンスデザインとなるNVIDIAの一般的なグラフィックボードとのサイズ比較。178mm x 126mm x 41mmと非常に短く収まっているが、横幅は若干広がっており、スリムタイプのPCケースでは留意が必要となる。
スタンダードな映像端子構成
映像端子には、DisplayPort×3、HDMI×1とスタンダードな構成だ。「HDMI」は4K/60Hz映像出力、HDR対応、横長の変則アスペクト比モニタに対応した「HDMI2.0b」に対応した最新仕様を1つ。ディスプレイポートのバージョンは「DisplayPort 1.4」となる。
ミドルレンジクラスのGPUということでDVI端子が1つ備えており、旧型PCモニタを愛用するユーザーにも配慮された構成となっている。
シングルファン
GPUファンは前モデルはトルクスファンを採用していたが、ノーマルタイプに戻されている様だ。ショートサイズということでシングルファンを採用している。
補助電源・バックプレート
補助電源は8ピン×1仕様。推奨電源ユニットは400Wとされている。補助電源コネクタの配置場所も奥まったポジションでないため、コンパクトながらも横幅には注意が必要だ。
バックプレートは省略されており、基盤はむき出しとなっている。
ゲーム系ベンチマーク
では「GTX1660Ti」のゲーム系ベンチマークを見ていこう。Turingアーキテクチャ採用による新世代ミドルレンジGPUの実力はどの程度なのだろうか。
3DMARK TimeSpy
最新のDirectX12ゲーム性能を図る「TimeSpy」。Turingではスコアが伸びやすい本ベンチマークという事もあり、「GTX1660 Ti」は「GTX1070」を圧倒し、「GTX1070Ti」に肉薄するスコアを叩き出している。AMDの「Vega56」すら上回っており、同レンジの「RX590」は相手にすらならない。
3DMARK Firestrike Ultara
現在主流のDirectX11の4Kゲーム性能を図る「FireStrike Ultra」。高負荷になると6GBのメモリ容量がボトルネックとなるのか「GTX1660Ti」は途端にスコアの伸びが鈍くなる。「GTX1070」と「Vega56」の背中は遠く、8GBのメモリを持つ「RX590」に負けている。
FinalFantasy XVベンチマーク
スクウェア・エニックスの看板タイトルとなるFF15のベンチマーク。ここでも「GTX1070」を上回る性能を示しており、AMDの「Vega56」を圧倒している。前世代のミドルレンジ「GTX1060」からの比較幅は大きい。
Firestrikeでは大きく落ち込んだ「GTX1660Ti」の4Kゲーミング性能だが、ここでは「GTX1070」や「Vega56」と互角の勝負を示しており、ビデオメモリがボトルネックとならない局面では本来のGPU性能を発揮できる事が伺える。
FF14ベンチマーク 紅蓮の解放者
4K 最高品質
PS3世代の古めのゲーミング性能を図るFF14ベンチ。「GTX1660Ti」は4Kでも「快適」判定を得ており、グラフィックオプションを調整することで4Kモニタを活用したゲームプレイも視野に入ってくる。
FullHD 最高品質
フルHDでもGTX1660TiはGTX1070相当のパフォーマンスを示しており、2世代前のハイエンド「GTX980Ti」を上回っている。下位モデルとの差は価格以上に大きい。
国産ライト ネットゲーム 4Kベンチマーク
ここからは国内ネットゲームのベンチマークを見ていく。これらのベンチは負荷が軽すぎてハイエンド帯ではフレームレートが飽和する。純粋なGPU性能というより、ゲーム動作を図る指標程度に捉えておいた方が良いだろう。
ドラゴンクエストX ベンチマーク
左:FullHD最高画質 右:4K最高画質
設計が古いゲームのベンチマークでもGTX1660Tiは想定どおりのパフォーマンスを発揮しており、一昔まえのゲームでも快適なゲーミングが期待できる。DQ10クラスであれば4Kでも「すごく快適」判定だ。
ファンタシースターオンライン2 設定6 ベンチマーク
ここでもGTX1070を上回る性能を示したGTX1660Ti。Radeonに不利なベンチマークで、Vega56,Vega64はGTX1660Tiと比較すると1ランク下のスコアとなっている。
VRベンチマーク
VRMark
高負荷VRの性能指標を図るBlueRoom。GTX1660TiはGTX1070を上回るスコアを叩き出しており、GTX980TiやVega56を上回る。全体的にTuringアーキテクチャの強さが光る結果となった。
SteamVR Performance Test
現在のVRゲームの標準となるStemaVRのパフォーマンステスト。GTX1660Tiはカンストに迫る10.9に達しており、一般的なVRゲームソフトであれば十分快適に体験できることが期待できる。
テストされたフレーム」に注目すると「VRレディ」以上のGPU性能の差が浮き上がってくる。ここでもGTX1660TiはGTX1070,Vega56を上回る。
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実際のゲームプレイ時のFPS比較・ゲーム性能
ここからは実際のゲーミングでの動作を見ていく。最新のプレイステーション4・XboxOne世代のフルHDゲーミング性能と、数年前のPS3・Xbox360世代のゲームのFPSを計測してみた。
PS4・XboxOne世代の最新ゲーム:1920×1080 & 4K
バトルフィールドV
レイトレースにいち早く対応したバトルフィールドV。ここではレイトレースをオフにした最高品質のDirectX12のグラフィック性能を見ている。ここではGTX1660TiのフレームレートはGTX1070やVega56には及ばない。とはいえ平均80フレームを超えており、十分快適にプレイできる。
4KではGTX1660Tiには荷が重すぎて平均30フレームが精一杯といったところだ。やはりGTX1070には及ばず、ベンチマークでは互角以上に渡り合えていたVega56との差も大きい。
アサシングリード オデッセイ
広大なオープンワールドとリッチなグラフィックで処理も重いアサシングリードオデッセイ。ここではGTX1660TiはGTX1070と比較しても遜色のないパフォーマンスを示しており、Vega56を上回る結果となった。
4Kでは荷が重く、このクラスのGPUでは平均30フレームに及ばない。しかし全体的にTuringアーキテクチャのフレームの落ち込みは低く、最新ゲームでの優秀性を示している。
PS4・XboxOne世代のゲーム:1920×1080& 4K
Witcher3 (ウィッチャー3)
オープンワールドRPGの代表作「ウィッチャー3」。GTX1660Tiは最高画質でも平均90フレーム近いパフォーマンスを示しており、GTX1070に迫る性能を示している。GTX1060との差は大きい。
4Kでは平均40フレームまで落ち込むが、画質オプションを調整することで60フレームも視野に入りそうだ。GTX1070,Vega56と大差ないパフォーマンスを発揮している。
For Hornar (フォーオナー)
GTX1660Tiは最高画質でも平均110近くに達しており、画質オプションを調整することでゲーミングモニタを用いた高フレームレートのゲーミングも視野に入ってくる。上位GPUはCPUが先にボトルネックとなり、フレームレートが伸びきらない。
4Kでは流石に荷が重いが、GTX1070との差は小さく、Vega56とも互角の勝負を演じている。
DarkSouls3(ダークソウル3)
上限のフレームレートが60フレームに固定されているダークソウル3。GTX1660Tiは上限フレームに達しており、そのGPU性能ではオーバースペック気味だ。
4K最高画質でGTX1660Tiは平均56フレームレートに達しており、画質オプションを微調整する事で平均60フレームも視野に入ってくる。全体的に高負荷時のTuringアーキテクチャの強みが出た結果となった。
Batman Arkm Knight (バットマン アーカム・ナイト)
PS4世代でも比較的初期のタイトルで負荷も軽い。GTX1660Tiは平均120フレームに達しており、高リフレッシュレートのゲーミングモニタを用いたゲームも視野に入ってくる。
4KでもGTX1660Tiは平均50フレームに達しており、画質オプションの調整によって60フレームも視野に入ってくる。
PS3、Xbox360世代のゲーミング:4K
ここからは前世代にあたるPS3、Xbox360とのマルチタイトルの4Kゲーミング性能を見ていく。
METAL GEAR SOLID Ⅴ (メタルギアソリッドV-グラウンド・ゼロズ)
小島監督によるメタルギア・ソリッド最終作品の序章。GTX1660Tiは4Kでも平均60フレームを達成しており、さらなる高画質オプションも視野に入ってきそうだ。
BioShock Infinite (バイオショック インフィニット)
上限フレームがなく、CPUもボトルネックになりにくいため、GPU性能の地力が出るバイオショック3。Turginアーキテクチャは全体的に苦戦気味でフレームレートの伸びが鈍い。とはいえ平均60フレームは超えており、旧作でも十分な性能を発揮している。
GTX1070,Vega56と互角のゲーミング性能
GTX1660Tiは前世代のミドルハイ「GTX1070」やライバルAMDのハイレンジ「Vega56」と互角のゲーミング性能を示している。最新のゲームでもフルHDであれば、最高画質でも60フレームをターゲットとしたプレイが可能となっている。
タイトルによって得手不得手もあるが、少し古めのゲームであれば画質オプションを調整することでWGHD,4Kで60フレームをターゲットにしたゲーミングも可能だ。レイトレース、DLSS対応ゲームが少ない現状を踏まえると、「RTX」シリーズの差は小さい。
GPUクロック、温度、GPUクーラーの挙動
GPU-Z情報
GPUコアはTU116、製造プロセスは12nmでメモリはGDDR6のMicron製を表示されている。
GPU-Z アイドル時と高負荷時の挙動
以下はアイドル時(左)と高負荷時(右)のGPU-ZのSensors情報。
高負荷時のコアクロック・GPU温度・ファンスピードの推移
以下はゲームプレイ時のクロックとGPU温度、ファンスピードの推移。GPU温度は概ね63度を上限に制御されており、クロックは1890Mhz付近で安定している。低い温度と高いクロックの両立を達成しており、バランスの良いGPUに仕上がっている様だ。
消費電力比較
ここからはワットパフォーマンスを中心にチェックしていく。TuringながらRTコア、Tensorコアを省いたGTX1660Tiの省電力は如何ほどなのだろうか。
*システム全体の消費電力のリアルタイムログが以下。(左:アイドル 右:フルロード)
高負荷時のシステム全体の消費電力
全体的に消費電力が増えたRTXシリーズだが、「GTX1660Ti」は「GTX1070」に近い性能を達成しつつも、消費電力は50W近い削減を達成しており、高いワットパフォーマンスを備えていることが伺える。RTコア、Tensorコアを省略したことによって、製造プロセスの微細化の恩恵を「RTX」シリーズ以上に受ける事ができたようだ。
電気料金比較
以下は「1日3時間、GPU負荷100%でゲームを1年プレイした」と想定した場合の年間電気料金の比較。実際には多くの人は1日3時間もゲームプレイは困難なので年間ベースでみると大きな差にはならない。とはいえ、同性能の「Vega56」と比較すると3000円近い差となっており、数年間利用するのであれば無視できない差だ。
「GeForce GTX1660Ti」レビューまとめ
旧世代のミドルハイ~ハイレンジに迫る性能
「GTX1660Ti」はTDP120Wながらも、前世代のミドルハイ「GTX1070」やライバルAMDのハイレンジ「Vega56」に迫る性能を示しており、最新のゲームでもフルHDであれば画質の品質を高いレベルで維持しながら、60フレームをターゲットに遊べるGPU性能を備えている。
省電力、低発熱でワットパフォーマンスも優れているため、コンパクトなPCや旧型PCのアップグレードにも最適だ。コンシュマーゲームでは実現できない高画質、高フレームレートによるPCならてはのゲーム体験をバランスの良い価格で実現できるGPUと見て良さそうだ。
「レイトレース」「DLSS」を切り捨てる選択肢
「RTX」シリーズは「レイトレース」と「DLSS」をアピールしているが、対応タイトルが出揃っておらず、その真価を発揮するには時間が必要だ。PS4、Xboxoneとのマルチタイトルが主流の間は、その普及速度も鈍い。
「今、人気のゲームが快適に遊べれば、それで良い」という割り切りで、「レイトレース」「DLSS」をバッサリと切り捨てて、コストパフォーマンス重視で「GTX1660Ti」を選ぶという選択肢も悪くないだろう。
「レイトレース」「DLSS」が普及してから、次世代で「RTX」に乗り換えるという選択が可能な点も、PCの強みだ。
MSI GeForce GTX 1660 Ti AERO ITX 6G OC グラフィックスボード (amazon)