消え行く1スロットRADEON「AFOX Radeon HD 7850 Single Slot」回顧レビュー。最新GPUと性能比較

Radeonの1スロット(シングルスロット)グラフィックボードが売ってない。かつてはミドルレンジクラスの1スロットモデルが多数国内でも販売されていた。しかし、iGPU・APUといったCPU内蔵GPUの性能アップや国内自作PC市場の縮小に伴い徐々にモデル数が減少。RX400、RX500番台ではついに国内販売が消滅した。

今回はそんな消えていった1スロットのRadeon 搭載グラフィックボードをレビューしていく。旧モデルながらも、2018年現在も1スロットRadeon最強クラスの「AFOX Radeon HD 7850 Single Slot」の性能を振り返ってみよう。

「AMD Radeon HD 7850」の仕様

「HD 7000」シリーズのミドルレンジGPU

今回レビューする「AFOX Radeon HD 7850 Single Slot」は「Radeon HD 7000」シリーズのミドル~ミドルハイレンジに位置する2012年発売のGPUだ。発売当初はNVIDIAのGTX570、GTX560Tiあたりと競合していた。

Radeon HD 7000シリーズは「GCN(Graphics Core Next)」アーキテクチャを採用しており、GTX600~GTX900シリーズと同クラスの製造プロセス28nmのGPUシリーズとなる。HD 7850はHD7870のシェーダープロセッサ数を半減、クロックとメモリを抑えたPitcain XTコアのカットモデルとなっている。

Radeonの1スロットモデル国内販売の縮小

Radeon HD 6000シリーズくらいまでは、まだ国内でも比較的「1スロット」(シングルスロット」タイプのグラフィックボードが店頭で販売されていた。しかし、HD7000シリーズあたりから徐々にミドルレンジ帯の商品の国内販売が見送られていく。

Rx200シリーズ、Rx300シリーズくらいまではエントリーモデルで多少の展開があったが、RX400、RX500シリーズでは遂に国内販売が消滅してしまった。

海外ではXFXやHISから1スロットのRX460やRX550が発売されているが、代理店契約を結んでいる日本のメーカーはXFXグラフィックボード事態の取扱を終息させており、HISの1スロットモデルの発売もない。

従って、現役で流通している「Radeon」の1スロットタイプのグラフィックボードを購入するには、海外のショップから個人で輸入するか輸入代理店経由で入手するしかない。

iGPUやAPU、コンパクトゲーミングPCの普及によって、国内の需要事態が縮小した結果だが、1スロットグラフィックボード好きには寂しい限りである。

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外観・形状の特徴

「AFOX Radeon HD 7850 Single Slot」レビュー

今回レビューに用いるグラフィックボードはAFOX社の「 Radeon HD 7850 Single Slot (AF7850-2048D5S1)」。AFOXは香港の会社で以前は国内でも代理店がグラフィックボードを展開していた。

本モデルの前進となるRadeon HD6850搭載のシングルスロット版モデル「AFOX Radeon HD 6850 Single Slot(AF6850-1024D5H1)」は国内店舗でも販売されていたが、後継となるHD7850版は国内販売が行われなかった。


Radeon HD 7850 Single Slot (Amazon)

インターフェース形状:PCI Express(3.0) x16
ベースコアクロック:860 MHz
メモリクロック: 1200 MHz
ビデオメモリ:GDDR5 2GB 256bit
映像出力:HDMI×1/DisplayPort ×1/DVI×1/ mini-DisplayPort×1
補助電源コネクタ:6ピン×1
専有PCIスロット:1スロット
カード長:216mm

外観

カードデザインは基本的に前モデル「Radeon HD 6850」版をそのまま踏襲している。ブラックを貴重としたカラー配色でシンプルにまとめられている。

AMDのロゴが大きく配置されており、メーカーロゴより主張が強い。カードの上面の吸気口のようなメッシュは単なる飾りで穴は空いなく、スリットも埋まっている。そのため、カード全体の大きなエアフローは後方のみとなっており、密閉度が高い。

サイズ比較

リファレンスサイズのGTX970との比較。このクラスの1スロットとしてはカード長が比較的抑えられている。ELSAの1スロットグラボ「Geforce GTX 1050 Ti SP」とほぼ同サイズのカード長21cmだ。

4種類 配置された映像端子構成

映像端子構成はDisplayPort、MINI-DisplayPort、HDMI、DVIの4種とシングルスロットモデルながらも、かなり多い。

DisplayPort出力時には4K@60hzが可能になっており、当時としては先進規格に対応していた。

シングルスロット対応

「AFOX Radeon HD 7850 Single Slot」の最大の特徴はシングルスロット対応だ。隣接するスロットを侵食する事なく、ミドルレンジクラスのdGPUを追加する事ができる。

PCIスロットに余裕がないmini-ITX規格のコンパクトPCケースで利用が可能になる。当時はキューブタイプのPCケースも人気商品であり、ユーザーに重宝されていた。

GPUクーラー

CPUクーラーはシングル構成で口径はELSAのGeforce 1slotシリーズと比較すると非常に小さい。

補助電源・バックプレート

補助電源は6ピン×1構成で、昨今のビデオボードでは見かける事が少なくなってきた後方接続タイプである。スリムタイプのPCケースで有り難いがボード後方スペースに余裕のないPCケースの場合は、ここがネックとなる。

シングルスロット構成なので、隣接スロットに干渉する様なバックプレートなどは勿論存在しない。基盤がカードサイズギリギリまで配置されている。

ゲーム系ベンチマーク

では1スロット版の「Radeon HD 7850」のゲーム系ベンチマークを見ていこう。4世代前となるミドルレンジGPUは2018年現在どこまで戦えるのだろうか

3DMARK TimeSpy 

最新のDirectX12ゲーム性能を図る「TimeSpy」。「Radeon HD 7850」は最新ローエンド「RX550」とを上回る検討を見せている。ライバルNVIDIAの「GT1030」m「GTX750Ti」より優位な性能を示しており、型落ちながらも一定のゲーミング性能が期待できる。

3DMARK  Firestrike Full HD

 

現在主流のDirectX11のゲーム性能を図るフルHD「FireStrike」。こちらは海外で1スロット版が存在する「Radeon RX460」に迫るスコアを示しており、「RX550」や「GT1030」、「GTX750Ti」と比較すると1ランク上の性能を発揮している。

FF14ベンチマーク 紅蓮の解放者

PS3世代の古めのゲーミング性能を図るFF14ベンチ。ここでも傾向に大きな変化はなく、Radeon HD7850はGTX750TiやRX550を上回るがRX460には届かないといった所だ。

国産ライト ネットゲーム 4Kベンチマーク

ここからはエントリーモデルで需要の大きい国内ネットゲームのベンチマークを見ていく。軽量なソフト群で最新GPUではオーバースペック気味なだけに、HD7850世代のGPUでも十分快適に遊べる事が期待できる。

ドラゴンクエストX ベンチマーク

左:FullHD最高画質 右:4K最高画質

ドラクエベンチは昨今のGPUでは負荷が軽すぎてフルHDではスコアが20000飽和している。HD7850はドラクエ10と相性が良いのか、GTX750Tiを大幅に上回り、RX560すらをも凌ぐ。

4K解像度でもHD 7850の強さは変わらない。Full HD同様にRX560を上回り「快適」判定を得ている。DQ10ならHD 7850で十分4Kゲーミングを楽しめると見て良さそうだ。

ファンタシースターオンライン2 設定6 ベンチマーク

PSOはGeforceに有利なベンチマークでRadeonではスコアが下振れしやすい。HD 7850も例外ではなく、PSOではGTX750Tiに遅れを取った。最新AMDのエントリーGPU「RX560」と比較するとほぼ互角といった所だ。

VRベンチマーク

VRMark

2017年にブームとなったVRだが、HD7850には流石に荷が重すぎる。快適にVRを体験するには6000程度のスコアが欲しいところだが、半分にも満たない。やはり最低でもGTX970以上は必要となるようだ。

SteamVR Performance Test

現在のVRゲームの標準となるStemaVRのパフォーマンステストでも勿論、VR使用不可判定となる。全体の80%でVRに必要な90フレームに達しておらず、VRは厳しい。

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実際のゲームプレイ時のFPS比較・ゲーム性能

ここからは実際のゲーミングでの動作を見ていく。最新のプレイステーション4・XboxOne世代のフルHDゲーミング性能と、数年前のPS3・Xbox360世代のゲームのFPSを計測してみた。

*以下 RX550=4GB、RX560=4GB

PS4・XboxOne世代のゲーム:1920×1080

Witcher3 (ウィッチャー3)

2016年にゲーム賞を総なめしたオープンワールドRPGの代表作「ウィッチャー3」。実ゲームで性能がスポイルされる事が多いRadeonだがHD7850はGTX750Tiを上回り、最高画質でもアベレージ30FPSに達する健闘を見せている。

画質を調整する事で十分プレイ可能なパフォーマンスだ。

For Hornar (フォーオナー)

フルHDでもビデオメモリの消費量が2GBを大きく越えるためか、HD7850はフレームレートが伸びない。しかし、同容量のGTX750Tiが相応に健闘している事から、他にも原因はありそうだ。NVIDIA GAMEWORKSとう事でRadeon勢は全体的に苦戦している様だ。

DarkSouls3(ダークソウル3)

ダークソウル3でもHD7850はGTX750Tiを上回り、それどころか最新GPU 「RX560」に肉薄している。最高画質でも平均FPS30を上回り、画質オプションを調整する事で更なるフレームレートアップを狙う事が出来る。

Batman Arkm Knight (バットマン アーカム・ナイト)

比較的初期のPS4タイトルでHD7850は最高画質でも平均45フレーム以上に達しており、ボトムも30フレーム程度と安定している。画質を調整すれば60フレームも不可能ではない性能だ。

PS3、Xbox360世代のゲーミング:1920×1080

ここからは前世代にあたるPS3、Xbox360とのマルチタイトルのフルHDゲーミング性能を見ていく。

METAL GEAR SOLID Ⅴ (メタルギアソリッドV-グラウンド・ゼロズ)

小島監督によるメタルギア・ソリッド最終作品の序章。HD7850は高画質で60フレーム安定しており、コンソールでは体験できないリッチなゲーミングが期待できる。

LIGHTNING RETURNS:FINAL FANTASY XIII(FF13 ライトニング リターンズ )

JRPGの代表作FF13のスピンオフ「Lightning Return」。HD7850なら余裕で、設定次第ではWQHDなどの更なる高解像度設定も狙えそうだ。

BioShock Infinite (バイオショック インフィニット)

上限フレームがなく、CPUもボトルネックになりにくいため、GPU性能の地力が出るバイオショック3。HD7850はGTX750Tiを大きく上回り、平均フレームレートは秒間80に達する。

Tomb Raider 2013(トゥームレイダー2013)

PS4・PS3との縦マルチとなるタイトル。HD7850で十分60フレームで安定プレイが可能だ。RX550ではフレームの落ち込みが見られるので、この辺がゲーム体験の境界になりそうだ。

Skyrim(スカイリム)

オープンワールドRPGの代表作。もちろんフルHDなら60フレームで安定しており、WQHDや設定次第では4Kゲーミングも期待できるパフォーマンスを見せている。

現行タイトルでも画質設定次第ではプレイ可能なHD7850

HD7850は「GTX750Ti」「RX550」以上 「RX560」未満といったゲーミング性能で現行のPS4,Xboxoneマルチタイトルゲームなら画質設定を調整する事で十分遊べるGPUだ。最高画質60フレームとはいかないが、ボトルネックとなる処理を適切に下げる事で、画質を損なう事なく、フレームレートを維持する事が出来る。

PS3、Xbox360世代のマルチタイトルであれば、HD7850の性能があればフルHD60フレーム安定で、GPUにも余裕がある。設定を調整する事でWQHDや高リフレッシュレートのゲーミングモニタを持ちいたプレイも視野に入ってきそうだ。

GPUクロック、温度、GPUクーラーの挙動

1スロットながらも相応のゲーミング性能を魅せた「AFOX Radeon HD 7850 singl slot」。ここからはGPUの温度、ファンなどに焦点を当てて見ていこう。

GPU-Z情報

GPUコアは「Pitcairn」。HD7870のカットモデルだ。メモリはHynixのGDDR5と表示されている。DirectXは12までサポートしており、必要十分である。

GPU-Z アイドル時と高負荷時の挙動

以下は高負荷時のGPU-ZのSensors情報。

高負荷時のコアクロック・GPU温度・ファンスピードの推移

シングルスロットモデルという事で、冷却性能が気になるところだ。ファンスピードはアイドル時は45%程度と耐えれる範囲に収まっているが、高負荷になるとGPU温度の上昇にともない一気にファンスピードが上がり、90%という超高回転で推移する。

コア温度も90度に達しているため、GPUのクロックを維持するには冷却能力が足りていないようだ。ファンの音は聞いた事がない程度に煩く、ゲームプレイ中はヘッドホンが必須レベルとなる。高いGPU性能を無理やり1スロットに収めた代償は想像以上に大きい。

消費電力比較

ここからはTDPが「GTX1050Ti」の消費電力にスポットを当ててみていく。

システム全体の消費電力のリアルタイムログが以下。(左:アイドル 右:フルロード)

アイドル時のシステム全体の消費電力

近年のビデオカードはアイドル時の消費電力が抑えられている。しかし旧世代となるHD7850は最新GPUと比較すると明らかに消費電力が高い。RX560と比較すると30W程度高く、GPUの進化を感じさせる結果となった。

高負荷時のシステム全体の消費電力

高負荷時も200Wに迫る消費電力となり、GTX1060と同レベルに達する。GTX750Tiと比較すると70W近く高くワットパフォーマンスという観点でみると、当然だが最新GPUに遅れを取っている。

電気料金比較

以下は「1日3時間、GPU負荷100%でゲームを1年プレイした」と想定した場合の年間電気料金の比較。GTX750Tiと比較すると3,000円程度となり、Steamのセールゲーム1本分相当となる。

「AFOX Radeon HD 7850 Single Slot」レビューまとめ

GPU性能は未だ1スロットRadeon最強クラス

「AFOX Radeon HD 7850 Single Slot」はHD7850というミドル~ミドルハイレンジのGPUを搭載しているという事もあり、旧世代ながらも予想以上のゲーミング性能を魅せた。概ねGTX750TiやRX550より高い性能で、ゲームにはRX460やRX560にも肉薄する。

概ねPS4,XboxOne世代のゲームであれば、画質オプションを調整する事で快適に遊べるパフォーマンスを持っている。PS3,Xbox世代のゲームであればフルHDではオーバースペック気味でWQHDやゲーミングモニタによる高フレームも視野に入ってくる。

無理やり詰め込めた代償となる騒音

しかし、HD7850という相応に高主力のGPUを無理やり1スロットに収めた代償でファンの音量はヘッドホンなしでは耐えれない程のレベルとなっている。GTX1050Tiですら、大型の口径ファンを採用している所をみると、HD7850でこの冷却性能は厳しかったようだ。

GPU性能は十分だが冷却性能がボトルネックとなり、実用面でみると常用は難しい。

1スロットRadeonの消滅

かつては多くリリースされていたシングルスロットRadeonだが、近年はAMDがAPUに力を入れており、各メーカーのモデル展開は消極的だ。市場事態の縮小もあり、ミドルレンジGPUを搭載した1スロットグラフィックボードは消えつつある。

最新APUはGT1030やRX550に迫る性能を見せており、コンパクト・スリムゲーミングPCの需要はシフトしたといった所だろうか。

とはいえ、海外ではRX460やRX550のシングルスロットモデルだけでなく、ファンレスやロープロファイルも展開されており、一定数の需要は維持出来ている。

各社横並びのスペックでは詰まらない。国内でも尖ったモデルのリリースに期待したい。

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